忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2025/05/10 19:35 |
【劇団ボーカロイド_02】がくぽ、仲間ができる


連投第二弾。

がくぽを迎えたマスターは、他にもボーカロイドを持っていたようです。
続きからどうぞ。

 




- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

『がくぽの低音はかっこいいね!期待以上だ!』
 
がくっぽいど起動後、マスターと呼ばれた人物はがくぽに2曲の歌を歌わせた。一つは低音を響かせるスローバラード。もう一つは音域が広くテンポも速いハードロックである。
いきなり楽譜と音源を渡され、初めこそキー合わせに手間取ったがくぽだったが、15分もしないうちにそれらを歌いこなして見せた。その歌声は彼のマスターを大いに感動させるものであり、またがくぽも、マスターの嬉しそうな顔を見て心底ほっとしていた。
自分が『不良品』ではないことを証明できたのだ、と。
 
「マスター、拙者は次はどんな歌を歌うのでござるか?」
『あ、今日はこの2曲だけだよ。まずは君の歌声の感じを知りたかったんだ』
「そうでござるか」
『これからいろいろ歌ったりしてもらうから、その時はよろしくね』
 
その笑顔に応えるように、がくぽは深々と頭を下げる。
よかった。新しいマスターはまともそうだ。
 
―――新しい?
 
ふいに浮かんだ言葉に違和感を覚え、自問自答する。まだ頭の中の大半を占めている靄を振り払おうとかぶりを振る。思い出そうと強く念じて、黒い靄の向こうにうっすら見えたのは、錆びた鉄の檻だった。
俺は、あれを知っている。俺は、あの中にいた。
俺は……
 
『がくぽ?どうかした?調子悪い?』
マスターの言葉にはっと我に返る。
「いや、何でもないでござる」
『そう?ならいいんだ。じゃ、今日の調声はここまで。みんなが歓迎会してくれるって言うから、しっかり親睦を深めてきてね』
「みんな、とは?」
 
マスターに促されてスタジオを出た途端、がくぽは腹部に強い衝撃を受けた。ぐらり、と視界が揺れる。
「な、何事だ!?」
状況が飲み込めないままとりあえず足を踏ん張り、なんとか体制を保つ。衝撃を受けた腹部に目をやると、金の髪に白い大きなリボンをつけた少女が満面の笑みでしがみついていた。
「やったー!リンが一番乗りー!レンの負けー!」
「負けじゃねーし!そもそも勝負とかしてねーし!」
顔も衣服も少女とよく似た少年が、悪態を吐きながら小走りで駆けてくる。
「二人とも、初対面の人にそんな挨拶はないでしょ!」
「めーちゃんの言うとおりだぞー」
やや遅れて、茶色の髪に赤い衣服の女性と、青い髪に青いマフラーの青年が歩いてくる。リン、と名乗った少女は、レン、と呼んだ少年に引き剥がされ、がくぽの目の前には4人の男女が並んだ。
『がくぽ、紹介するよ。これから一緒に活動する、君の仲間たちだ。2人ばかりレコーディング中でいないけどね』
「鏡音リンです!レンのお姉ちゃんです!好きな食べ物はミカンです!あと歌うことと、レンも好きです!よろしくお願いします!」
「鏡音レンです。リンと俺は双子。よろしく」
「俺はKAITO。同年代の男が増えて嬉しいよ。あ、がっくんて呼んでいい?俺のことはカイトでいいよ」
「リンもがっくんて呼びたい!」
「ちょっとリン、あたしの自己紹介遮らないでよ!……あたしはMEIKO。メイコでいいわ、よろしくね」
立て続けの自己紹介に、その場の状況を飲み込めないまま、次々と差し出される手を握り返した。
『他のボーカロイドに会うのは初めてかい?』
「……彼らも、拙者と同じなのか?」
『そうだよ。メーカーは違うけどね』
 
知らなかった。
仲間がいるのか。
自分には、仲間がいたのか。
 
「がっくんはね、俺たちのお隣さんになるんだよ」
「今日はがっくんの歓迎会なんだよ!お兄ちゃんとお姉ちゃんがご馳走をたくさん作ってくれたんだよ!リンは部屋の飾り付けをしました!」
「よく言うよ。味見ばっかりで、紙輪も花も一つしか作んなかったくせに」
「だっておいしそうだったんだもん!」
「マスター、ミクとルカはいつ頃終わりそう?」
『そうだなあ……。とりあえず、あと30分だけ』
「オッケー」
 
和気藹々と笑いあう彼らの姿に、がくぽは眩しげに目を細めた。
見渡せば、空は青く、周囲には木々や建物が立ち並び、鮮やかな輝きを放っている。
こんな世界があったのか。こんなにも、あたたかい世界が。
 
「「どうしたの?」」
心配そうに見上げる双子から同時に声を掛けられて、我に返る。
俺はもう、一人ではないのか。
「いや、なんでも」
そっと、双子の頭を優しく撫でた。
「拙者、神威がくぽと申す。リン殿、レン殿、カイト殿、メイコ殿、以後よろしく」
がくぽの胸の中は、先ほどの暗い記憶も霞むほどの喜びに満ち溢れていた。

拍手[0回]

PR

2010/08/27 22:05 | ボカロ。

<<【劇団ボーカロイド_03】がくぽ、混乱する | HOME | 【劇団ボーカロイド_01】がくぽ起動>>
忍者ブログ[PR]