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2024/05/19 06:05 |
【がくぽ×ルカ】ラスト・ワルツ
早く秋よ来い。暑いのは苦手なんです。



やっとこさ、ぽルカのお話を書くことができました。
でもちっとも幸せじゃないという。
しょぼーん(´・ω・`)
素敵テキストサイト様で読みまくっているんだけどなあ。



続きからどうぞ。




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微かに雪が舞う窓の外を眺めながら、青年は食後の紅茶を味わっていた。昔はあれほど嫌っていたしきたりや礼節も、慣れてしまえば息をするのと同じくらいに自然に振る舞えるものだ。
「神威様、紅茶のおかわりはいかがですか?」
傍らでティーポットに手を掛けるメイドを軽く制して椅子に掛けるよう勧めると、彼女は静かに首を振った。
「私はメイドですから」
生真面目な彼女は相変わらず融通が利かない。だが、こんなやりとりも今日で最後になる。
 
3年前。当時17歳のがくぽは、若気の至りという言葉では片付けられないほどの素行不良だった。友人などできるはずもなく、両親の忠告も耳に入らず放蕩三昧。そのがくぽの御目付役兼教育係としてあてがわれたのが、2つも年下のルカだった。
「最初から脅しにかかるものだから、呆れてものも言えませんでしたわ」
「ものを言う代わりに、私を投げ飛ばしただろう」
カップを置いて恨めしげに見上げると、ルカはそうでしたかしら、ととぼけてみせる。
「初めの頃は喧嘩ばかりしていたな」
「神威様は大変不真面目でしたから。すぐ隠れる、話を真面目に聞かない、思い通りにならないとふてくされる」
「そしてお前に投げられる」
「一番お上手になったのは受け身ですわね」
ルカは静かに紅茶を注いだ。がくぽは苦笑しながらそれを受け取る。
 
17年間誰も手に負えない問題児だったがくぽが貴族としての嗜みを身につけられたのは、厳しくも決して諦めず見放さなかったルカの献身に他ならない。幾度とない衝突や喧嘩を繰り返して2人は絆を深め、気付けばがくぽにとってルカは傍にいて当たり前の存在となっていた。
「いつもながら、お前が淹れる紅茶は香りの深みが他とは違うな」
「神威様の好みは私が一番心得ているつもりです」
がくぽは僅かに表情を歪ませた。がくぽと同じように窓の外を眺めるルカの表情にも、どこか暗い影が落ちている。
「そうだな。お前は私のことを誰よりも理解してくれる。私もお前を、誰よりも理解しているつもりだ」
「……私などにはもったいないお言葉ですわ」
 
それきり、会話が途切れた。ややあって、気まずい沈黙を打ち消すようにがくぽが振り返る。
「ルカ、いつものレコードを掛けてくれ」
「承知いたしました」
ルカは壁の本棚から一枚のレコードを取り出し、蓄音機に掛ける。がくぽが一番気に入っている、秋の風のように物悲しげなワルツだ。何度も繰り返しかけたためにところどころ擦り切れたレコードは、風邪を引いたような声で歌い始めた。
「これもそろそろ新しいものに買い替えてはいかがですか?」
「このままでいい。私はこれが気に入っている」
がくぽは椅子から立ち上がると、ルカに向かって手を差し伸べた。その手にルカがそっと手を載せ、2人だけの舞踏会が始まる。月明かりと僅かな燭台の光に浮かび上がる姿は、オルゴールの上で踊る磁器人形のように美しい。
「何度もお前の足を踏んでは叱られたものだ」
「とても痛かったんですもの」
あの時の喧嘩も激しかったと、お互いに思い出して小さく笑った。
レコードは時々つまづきながらも、懸命にメロディを紡ぎだす。ゆったりと流れるようなステップに、がくぽの髪が空気をはらんで翻る。光に透けて宝石のように輝く彼の髪を、ルカはうっとりと見つめた。
「神威様の御髪は本当に美しい藤色ですこと。初めてお会いした時は鼠色かと思うほど傷んでおりましたのに」
「お前が毎日丹念に手入れをしてくれたからな」
「それも私の仕事ですから」
明るい声とは裏腹に、ルカはがくぽの髪を見つめたまま、彼の顔を見ようとはしない。
「……長いようで短い3年間でしたわ。私、少しは神威様のお役に立てましたかしら?」
「今の私があるのは、全てルカのおかげだ」
再び、2人の間に重い沈黙が訪れる。
 
今年、がくぽが20歳を迎えた誕生日のパーティーに、両親は彼の許嫁を同席させた。これまで許嫁がいることなど全く知らされていなかったがくぽは戸惑い憤ったが、家の格は彼女の方が遥かに上であり、彼の素行が20歳までに治らないようなら破談にすると申し渡されていたためだと聞かされ、渋々納得せざるをえなかった。この婚姻が神威家にとって非常に重要なものであることは両親の顔色からも伺えた。
両親はがくぽがルカに対して主従関係以上の思いを抱いていることにも気づいており、がくぽの誕生日から程なくして隣国の商家との縁談をまとめてしまった。がくぽはルカを傍に置きたいと何度も頼んだが、その願いはついに聞き入れられなかった。
明日、ルカは婚礼の準備のためにこの屋敷を離れる。
 
幾分ぎこちなくなったステップが、過ぎてゆく時間を惜しむように繰り返される。
「お前の焼くスコーンも、もう食べられなくなるのか」
「新しいメイドは菓子作りも上手だと聞いています」
「朝、お前に起こされることもなくなる」
「これからはきちんとご自分で起きてくださいませ」
「お前とこうして踊ることもなくなる」
「奥様になられるお方は、ダンスがお得意だそうですよ」
「お前に、会えなくなる」
「……」
不器用なステップはついに止まった。とぎれとぎれのワルツだけが居心地悪そうに部屋に響く。
「……ルカ」
「はい、神威様」
見上げたルカの瞳を、がくぽの真っ直ぐな眼差しが見据えた。
「俺には、欲しいものがある」
「……存じております」
「それを手に入れるには、お前の許可がいる」
「そうですわね。……でも」
がくぽと同じくらいに悲痛な表情を浮かべたルカは、無理矢理に微笑んで見せた。
「差し上げられませんわ」
 
がくぽはこれまで幾度となくルカへの思いを口にしたが、ルカは決して受け入れようとはしなかった。お互いの思いは痛いほどに感じていたが、2人の間には、身分の違いという乗り越えられない大きな壁がある。使用人の彼女を正妻として迎えることは叶わず、かといって彼が身分を捨てるとなれば、それは2人が共に歩んだ日々を真っ向から否定することになる。
今夜が2人で過ごせる最後の夜とわかっていてなお、ルカは主従関係を貫こうとしている。それはがくぽのためを思えばこその態度だとわかっているから、がくぽもそれ以上何も言えなくなる。
ワルツの姿勢のまま、どんなに心を寄せ合っていても、これ以上互いの体を引き寄せることはできない。この距離が、2人の関係の縮図だった。
 
翌日、うっすらと積もった雪景色の中、ルカは僅かな手荷物を持ち門に佇んでいた。がくぽは見送りを許されたが、離れた所から監視役が数人目を光らせている。万が一にも、ルカの手を取り逐電しないとも限らないからだ。
「そんなひどい隈では、婚家に追い返されるぞ」
「神威様こそせっかくのお顔が台無しですわ」
それぞれに眠れぬ夜を過ごしたルカとがくぽの顔色は冴えない。
「ルカ、これを」
がくぽは懐から小花が細工された櫛を取り出し、受け取れないと首を振るルカの手に握らせた。
「私からの結婚祝いだ。暮らしに困った時は金に換えなさい」
包み込むように握った手を名残惜しげに離し、力なく笑った。
「本当は、来月のお前の誕生日に渡したかったのだが」
「神威様……」
門の外で待つ馬車から、御者の急かす声がする。ルカは、鞄を持つ手に力を込め、深々と頭を下げた。
「今まで、大変お世話になりました。このご恩は一生忘れません」
顔を上げたルカとがくぽの視線が交わる。お互いに、今にも泣き出しそうな顔をしていた。こらえきれずに手を伸ばしたがくぽを振り切るように、ルカは身を翻す。
「さようなら。がくぽ様」
初めて、がくぽの名を呼んで。
ルカは振り向きもせずに馬車へと駆け込んだ。
 

雪上に轍を刻みつけながら小さくなってゆく馬車の後ろ姿を、がくぽはいつまでも眺めていた。

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2010/09/13 22:30 | ボカロ。

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