忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/19 15:46 |
【17years before】背中
毎回サブタイトルに頭を悩ませています。mayutoです。
もくじのところに書く一文も困ってます。語彙が来い。

昨日のアニトリ、演出がかっこよかったですね。千代婆好きなので食い入るように見てました。
すき家のCMは……うん。いかにココさんと言えど、あの水鉄砲はちょっといただけませんな。

さっき唐突に「サニー(ノンケ)が止むに止まれぬ事情でココを押し倒し、そこへトリコがやってくる」という謎の修羅場設定を思い付いたのですが、謎すぎて使い道がありません。


庭時代捏造(14)です。










 闇の中を幾筋ものサーチライトの光が駆け巡る。怯えた顔の一般職員や子供達は何が起きているのかも知らされないまま、淡色の防護服を纏った集団に急かされて足早にシェルターへと向かっていた。ふいに方向転換したサーチライトが中庭をぞろぞろと移動する彼らの上を行き過ぎる。一瞬照らし出された白い防護服の背中には識別番号と『特殊医療班』の文字がプリントされていた。植木と建物の影を縫って走るトリコの背に揺られながら、サニーは憎しみのこもった眼差しでその文字を睨みつけた。
 居住棟へと滑り込んだトリコは、人の気配に気付いて慌てて身を隠す。無人だと思っていた廊下をオレンジ色の防護服姿の人間がうろついていたのだ。背中にプリントされているのは『グルメ研究所』の文字。貧弱な科学者や特殊医療班ならば一撃で気絶させる自信はあったが、マンサムの部下である彼らは研究者とは名ばかりの屈強な男達である。たまに組手の相手をしてくれることもあり、その強さは身に沁みてよく知っていた。
 目指しているのは最上階だ。1階から直接通じる階段はなく、必ず各フロアを端から端へと移動してジグザグに上らなければならなかった。運良く目の前の男達を倒すことができたとしても、途中の階で捕まる可能性は高い。今になって、トリコはマンサムに事情を説明しておかなかったことを悔やんだ。
 ――何してやがる! チンタラしてるとオヤジが着いちまうぞ!
 ゼブラの罵声はもっともだ。彼がココを救い出した研究棟は敷地の外れにあり、トリコ達の倍以上の距離を移動してきている。本当ならばトリコ達はとっくに最上階に着いてゼブラの手助けをしてやれるはずだった。しかし目と鼻の先をオレンジの防護服が歩き回っている状況では迂闊に声を出すこともできない。
 押し黙るトリコの代わりに答えたのはサニーだった。ゼブラの耳でも聞き取れるか分からない程小さな音が法則性のあるリズムで繰り返される。触覚で床を叩いてメッセージを送っているようだ。
『すぐ近くにグルメ研究所の奴がいて動けない。何とかしろ』
 舌打ちが聞こえた後、オレンジの集団がにわかに慌ただしくなった。上階からもゾロゾロと降りてきて一斉に外へと駆け出して行く。彼らの持つ無線機からはマンサムらしき声が響いていた。
 ――研究棟裏手で子供の声を聞いた者がいるとの連絡が入った。至急研究棟へ集合せよ。
 今度こそ廊下は無人になった。壁に寄り掛からせていたサニーの体を背負い直すと、触れた部分が燃えるように熱い。
「貸しだかんな」
「ここまでおぶってやった分でチャラだろ」
 今までの遅れを取り戻すべく、トリコは全速力で階段を駆け上がった。

 ゼブラは居住棟の側面に設置された非常階段と壁の隙間をよじ登っていた。この非常階段は中庭から影になる位置にあり、サーチライトの光も届かない。非常階段の周囲は転落防止用の金網でぐるりと囲まれているため足場には事欠かなかった。
 ココはずっと気を失っている。実験室を出る際、濡れた体に服を着せるのにも四苦八苦したのだが、それ以上に苦労したのが彼を背負って移動することだった。
 力の抜けたココの体は自力で姿勢を維持することができないので、ただ背負うだけでは駄目だ。ゼブラはまず着ていた長袖シャツをベルト替わりにして自分と背負ったココの体とを縛り付けた。次に、ココの腕を自分の胸の前で交差させ、床に落ちていた梱包用の紐で両手を縛り、紐の先をシャツの結び目に絡ませた。紐が足りずに縛ることができなかった両脚を手で支えてやれば、どうにか走ることができた。
 非常階段までやって来ると、もう一つの問題に行き当たった。金網を登るためには両手を使わなければならないのだ。慎重に登り始めたゼブラだったが、支えを失って垂れ下がるココの脚が風に煽られて揺れるたびにバランスを崩しそうになる。更には結んだシャツが腹に食い込んで下半身の血流が滞り、時々立ち止まって体勢を立て直す必要があった。苦心しながらもどうにか半分まで登ったところで、一旦休息を取ることにした。
 2人はどの辺りだろうかと耳を澄ませる。トリコの弾んだ呼吸を捉えたのは今しがみついている場所よりも1階下の廊下だった。このペースで行けばすぐに追い越されるだろう。ヘリコプターの機影と轟音も近付きつつある。
 ゼブラは片手を離して固く拳を握ると、力任せに背後のココの額を殴りつけた。鈍い音の後、ややあってからくぐもった呻き声がした。
「……うう……痛…………」
「いつまでも寝てんじゃねえぞコラ」
「え、ゼブラ……?」
 徐々に意識がはっきりしてきたのか、ココは体をもぞもぞと動かした。吐息が右を向き、左を向き、そして正面へと向き直る。
「はっ、離して!!」
 ココは急にじたばたと暴れ出した。腕の拘束を解こうともがくせいでシャツの結び目に胃を押し上げられ嘔吐感が込み上げる。無駄に長い両脚を振り回され、ゼブラの体は金網が音を立てるほど大きく揺れた。
「こんな所で暴れんな! 危ねえだろ!」
「離して! 離してってば!」
「下見てみろ! 落ちたら2人とも一発で死ぬぞ! てめえはオレを殺す気か!!」
 『殺す』という言葉にビクリと体を強張らせたココは暴れるのをやめた。揺れが収まり、ゼブラは注意深く周囲を窺う。どうやら誰にも気付かれずに済んだようだ。
「あと半分登らなきゃならねえんだ。落ちたくなかったらちゃんと力入れて掴まれ」
「……嫌だ。どこかその辺に置いて行って」
「あ?」
「だってその腕、ボクの毒のせいなんでしょ?」
 震える声が示した腕へと目をやる。ココを紫の液体から引き揚げた左腕は全体が真っ赤に腫れ上がり、小刻みに痙攣していた。時間の経過と共に内出血箇所も増えている。指先の感覚はとうの昔になくなっていたが、ゼブラは根性だけで金網を握り締めていた。
「この程度で死ぬか阿呆。さっさとしろ、本当に落ちちまう」
「ダメだよ、このまま毒が回ったら」
「ぐだぐだしゃべってる時間はねえ。特殊医療班が泡食ってそこらじゅうを探し回ってる。あいつらに捕まったらどうなるか、お前が一番よく知ってんだろうが」
「……」
 答えないココを無視してゼブラは先の金網に右手を掛ける。腕の力だけでは姿勢維持が精一杯だ。爪先を引っ掛けてやっと体を上に持ち上げた時、ココの脚が腰骨の上にしっかりと絡み付いた。尻を押し上げて体勢を安定させてやることで重心が高くなる。これならもっとスピードを上げても問題ないだろう。
「ごめん」
「謝るな」
「……うん」
 密着した背中に激痛が走る。ゼブラはわずかに顔を顰めたが、何事もなかったかのように左手を伸ばした。


 息を切らしたトリコは最後の一段を登りきり、そのまま潰れるように床にうずくまった。全身から汗が噴き出し、心臓は口から飛び出しそうなくらい忙しなく拍動している。太腿の筋肉はトリコの意思とは関係なくピクピクと痙攣していた。自分と背格好の変わらないサニーを背負って1階から最上階まで駆け上がり、一階登るごとに100メートル以上ある廊下の端から端を全力疾走したのだから無理もなかった。背中からずり落ちたサニーに声を掛けると、か細い嫌味が返ってくる。意識が朦朧としているのか口調はどこか舌っ足らずに聞こえた。
 ヘリコプターの翼が空気を切り裂く雷鳴のような音はかなり近くまで来ている。トリコは汗を拭いながら顔を上げた。
 長い廊下の突き当たりに見える鉄製の扉には『執務室』の文字。しかし実際には執務室に続く渡り廊下への入り口でしかない。一龍の執務室は居住棟に隣接する別館の最上階にあり、まだまだたくさんの階段を登らなければならないのだ。別館の警備は敷地内一厳重で職員専用のカードキーがないと中に入ることはできない。トリコ達が別館に侵入できる唯一のルートが居住棟の渡り廊下だった。ここも本来ならきちんと施錠されていなければならないのだが、最近は掃除係の老婆が面倒がって開けっ放しにしていることをトリコ達は知っていた。
 突然、凄まじい音とともに風が背中を押した。驚いて振り返ると背後の非常扉が蹴破られて無残に歪んでいる。
「間に合ったな」
 扉を蝶番ごともぎ取って床に放り捨てたゼブラは、ふらついた体を壁に手を付いて支えた。腕全体が2倍近く腫れ上がっているだけでなく、口の周囲にはニキビのような吹き出物が現れていた。充血した両目の下にはどす黒い隈もある。彼の体を蝕んでいるのはサニーとは違う種類の毒らしい。
「げ、ゼブラ何その顔……すっげブサイク」
「てめえも人のこと言えねえぞ」
 掠れたサニーの挑発に仏頂面のまま言い返した言葉からは、音弾で聞いたような覇気は感じられなかった。
 ゼブラは腰に巻いていた帯状の布を解くと、背負っていた黒い大きな塊を床に降ろす。人間の形をした黒い塊は足を着こうとしてよろめき、ぺたりとその場に尻もちをついた。
「約束通り連れて来たぜ」
「……ココ!」
 ココは黒いフード付きパーカーを羽織りブラックジーンズを穿いていた。もやしのような手足が見えなければ、少し細身ではあるが普通の少年と何も変わらない。けれどゼブラを見上げるココの横顔には、昨夜彼の手を染め上げたのと同じ赤紫の斑点がまばらに浮かび上がっていた。
「ココ、大丈夫か!?」
 振り向いたココの黒い瞳はトリコの上気した赤い頬を映し、その後ろで倒れるサニーの土気色の頬を映した。ココは今にも泣き出しそうに顔を歪めて唇を噛んだ。生乾きの髪は幾筋かの束状に纏まって額に張り付いている。
「ごめんね。ボクのために、ボクのせいで、こんな……」
 ココの感情の揺らぎに呼応するように顔の斑点がじわじわと面積を増していく。トリコの鼻は甘い砂糖菓子のような香りを嗅ぎ取った。以前受けた嗅覚検査の項目に、似た香りの花をつける食獣植物があったことを思い出した。
 ふいに、ヘリコプターのプロペラ音が止んだ。4人は一斉に天井を見上げる。ついに一龍が到着したのだ。トリコは疲労困憊した体に鞭を打って立ち上がった。両脚は鉛のように重かった。
「喜ぶのは早えぞ。面倒な奴らも来やがった」
 ゼブラの言葉通り階下からは無数の足音が最上階を目指して近付いて来ている。トリコ、サニー、ゼブラは顔を見合わせた。
 毒に冒された2人の体はボロボロだった。もはや執務室まで辿り着く体力は残っていないだろう。トリコの体力も限界に近いが、それでも2人に比べればまだまだ余裕がある。となれば選択肢はひとつしかない。
「行こう、ココ。この先はオレとお前だけで進むんだ」
「ボ、ボクとトリコだけ? ゼブラとサニーは?」
「てめえは黙ってトリコについて行きゃいいんだよ。いい加減オレ達に適応しろ」
 面倒臭そうに言うとゼブラはココの襟首を掴んで立ち上がらせた。サニーもトリコの助けを借りてどうにか立ち上がる。
「そゆつくしくない顔すんな。んな顔させるために顔筋体操させたんじゃねーし」
 何か言おうとしたココを遮って背を向けたサニーは、ひらひらと手を振り階段を降り始めた。その後ろに指の骨を鳴らしながらゼブラが続く。2人とも立っているのがやっとの状態にもかかわらず、足取りはしっかりとしていた。
 トリコは2人の背中を目で追うココの右手を掴んだ。ココの肌は見えている面積の半分以上が赤紫に侵食されていたが、そんなことは少しも気にならなかった。
「走るぞ」
 トリコはしっかりとココの手を握り、駆け出した。



Fin.

拍手[13回]

PR

2013/06/24 01:18 | トリコ。

<<25巻感想、コメント返信 | HOME | 【17years before】2人と2人>>
忍者ブログ[PR]