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2024/05/19 11:03 |
【あの日、サンタが歌った歌は】2.The Green Score
クリスマステキストその2です。

< 緑 > を選んだ方はこちらへどうぞ。

< やっぱり赤にする >







 12月23日、夕方から降り始めた雪は、消灯時刻を過ぎる頃には辺り一面を真っ白な世界に塗り替えてしまった。飲み込まれそうな黒い夜空にぽっかりと浮かんだ月の色は、ふわふわのスポンジケーキ。輝く星々は金平糖。舞い降りる雪は粉砂糖。降り積もった雪は生クリーム。無機質な研究所ですら、この景色の中では砂糖菓子に見えてしまう。
 誰もが寝静まった深夜、真っ赤な4つのイチゴが小さな足跡を残しながら月明かりの下に現れた。
「今日は一段と冷えるな。息が真っ白だぜ」
 ざくざくと雪を踏みしめて歩く少年達。彼らの纏う防寒着はどれも赤い色で統一され、全員の肩にはパンパンに膨れたとても大きな袋が担がれている。
 先頭を進むのはダウンジャケットにニット帽のゼブラ。その後ろに続くのはファー付きポンチョを着て耳当てをしたサニー。やや遅れて、モッズコートにマフラー姿のトリコを追いかけるココは、ダッフルコートとタートルネックセーターに身を包んでいる。
「ボク達、まるでサンタクロースみたいだね」
「ははは! 本当だな!」

 顔を見合わせてココとトリコは笑った。前方からサニーの呼ぶ声がして、2人は駆け足で目的地へと急ぐ。
 
 4人が目指していたのは裏庭の外れに立つモミの木だった。高さはおよそ10メートルほどだろうか。白色のペッパーランプが申し訳程度に引っ掛けられているだけで、オーナメントもなければトップスターもない。
 ここのクリスマスでメインとなるツリーは、研究所と居住棟に挟まれた中庭に毎年据えられる50メートル超えの巨木である。そちらは既に華やかに飾り付けられて我が物顔でふんぞり返っており、この木は一応モミの木だからという理由で電飾が巻き付けられているにすぎない。
 この貧相なツリーをどうにか美しくしたいと考えたサニーは、仲間達にチーム対抗の飾り付け競争を持ちかけた。ルールは簡単。制限時間1時間のうちにより多くのオーナメントを飾り付けたチームがトップスターをつける権利を得るというものだ。ただし一箇所に全部まとめて取り付けるような『美しくない』やり方は反則負けとなる。
 負けず嫌いなゼブラとトリコはすぐに興味を示し、初めは渋っていたココもやる気満々のトリコに押し切られる形で参加を承諾した。
 
 モミの木にたどり着いた4人は、まずお互いの袋の中身を確認した。
 キャンディケーン型、ギフトボックス型、ジンジャーマン型、ソックス型のオーナメントがそれぞれ50個ずつ。どれも大人の掌ほどの大きさがある。形は同じだが、それぞれゼブラが赤、サニーが金、トリコが銀、ココが紫と色分けされていた。
 じゃんけんによるチーム分けの結果、ゼブラとココ、トリコとサニーが組むことになった。
「よし、んじゃさっそく始めっか!」
 サニーが袋から大きなトップスターを出して木の根元に置き、ゼブラが首から下げたタイマーを60分にセットし、構える。
「「「「よーい、スタート!」」」」
 先陣を切ったのはココだった。持ち前の身のこなしの軽さと暗闇でもはっきりと見渡せる視力を生かしてするすると登っていく。懸命に追いかけるゼブラとトリコを引き離してあっという間に半分の高さに到達すると、枝の間隔が狭い場所を見つけて袋を置き、先端を引き寄せてオーナメントを括りつけ始めた。
 ココがジンジャーマンの紫の紐を枝に結び付けながらふと下を見ると、地上で仁王立ちしたサニーの周りに金のソックスがいくつも浮かんでいる。ソックス達は吸い寄せられるようにツリーに近づき、枝を揺らしてぶらさがった。
「どーよ! オレの触覚さばき! パネェつくしーだろ!」
 得意げに笑うと、ツリーの周りを歩きながらどんどんオーナメントを飾り付けていく。ココも負けじとさらに上へ登り始め、その音を聞いたゼブラはココと反対方向の枝へ進んだ。
 性格も趣味嗜好もバラバラな彼らは、飾り付けにも個性が出た。ココはツリーを一周させるように同じ種類のオーナメントを等間隔に並べて吊るしていた。ゼブラはとりあえず数を稼ぐためにランダムに枝に引っ掛けている。トリコも似たようなものだが、きちんと結び付けている分ゼブラよりも捗っていない。サニーは全体のバランスを見ながら他の3人のオーナメントも微調整している。
 4人は時折金色の包装紙のチョコレートを食べながら、思い思いに飾り付けを進めた。
 
 ゼブラの斜め上を陣取って銀のキャンディケーンを吊るしていたトリコは、上方のココを見上げて手を止めた。
「サニー、ちょっと手伝ってくれ!」
 何を思ったか、突如サニーめがけて飛び降りた。ほぼ条件反射で繰り出されたサニーのフライ返しを利用して空高く飛び上がり、そのまま空中で向きを変えると、トリコはココより少し高い枝に飛びついた。衝撃でモミの木が大きく揺れ、ゼブラの手から袋が滑り落ちる。急いで手を伸ばしたが間に合わず、バランスを崩して袋もろとも地面に落下した。
 頭に来てすぐさまボイスミサイルを放つ体勢をとったゼブラを、サニーが大慌てで食い止める。いくらここが居住棟から離れているといっても大音声で技を放てば確実に職員達を起こしてしまう。額に青筋を浮かべつつも何とか思いとどまったゼブラは、忌々しげに舌打ちすると小さくピンポイントに声を放った。
「そっち行ったぞココ。逃がすなよ」
「ボクは自分の分で精一杯だよ……」

 その言葉通り、ココは袋の口を握りしめて何とか手近な枝に縋りついていた。文句を言ってもトリコは笑いながら気のない謝罪を口にするだけで、ココはぷうっと頬を膨らませた。
 やがて、揺れが収まってきた頃合いを見計らって、トリコはそろそろとココの傍まで降りてきた。その目はココの手を見つめている。
「真っ赤だな、ココの手」
 指摘されて初めて気付いたらしく、ココは自分の手を見て苦笑した。真冬の寒空の下で手袋もしていなかった手は、いつしかしもやけで赤くなっていた。
「トリコだって人のこと言えないじゃないか」
 よく見れば2人とも手だけでなく頬や鼻の頭、耳も赤い。ずるずると洟をたらすトリコを品がないと叱りながらもココはティッシュで鼻を拭ってやる。
 飾り付けを始めてからもうすぐ40分が経とうとしていた。しんしんと降りつもる雪は彼らがこの場所まで歩いてきた足跡をすっかり消し去っている。
 トリコは肩を竦めて身震いしたココの手を取ると、おもむろに自分の頬に当てた。ココは驚いて手を引こうとしたが、その上からさらに手を重ねられて阻まれる。
 氷のように冷たくなった手を包み込んでごしごしとさすりながら、トリコはニカッと笑った。
「温かいだろ?」
「もう……。ボクに何の躊躇もなく触れるのはトリコだけだよ」

 呆れた声で言い放つその頬は明らかに先程よりも赤い。ココは照れ隠しにニコニコと見つめてくるトリコの緩んだ頬をむにっと引っ張った。トリコの頬は思いのほかよく伸びて、おかしな顔にこらえきれずココも笑った。
 突然、すぐそばで風を切る音がして、とっさに2人は身構えた。ガサッと葉の間からココの手元に飛び込んできた物体は赤いギフトボックス。
「ちっ、避けやがったか」
 下ではゼブラがしたり顔で笑っている。先程の仕返しなのは明らかだ。
「危ねえだろ!」
「お前が鈍くさいだけだ。チョーシ乗んな」

 トリコはココが止めるのも聞かずに飛び降りた。その着地した瞬間を狙ってゼブラが顔面に雪玉をぶつける。そこに面白がったサニーが加わり、止めに入ったココも3人から同時に攻撃され、結局全員参加の雪合戦へと発展した。
 真夜中に白い息を吐きながら全力で雪玉を投げ合う。全身雪まみれになったお互いの姿がおかしくて、笑い声を抑えるのにみんな必死だった。
 静まりかえった4人だけの世界で、タイマーが制限時間終了を告げるまで彼らは雪玉を投げ合い続けた。
 
 服についた雪を払い落しながら、サニーは満足げに目を細めてモミの木に語りかけた。
「どーよ、オレ達からのクリスマスプレゼント。なかなかうめーだろ?」
 60分かけて、4人は用意したオーナメントのほとんどを飾り付けることができた。あとは天辺にトップスターを取り付ければクリスマスツリーの完成である。
「やった数を数えるよりも、残りから逆算した方が早いよ」
 袋に残ったオーナメントを雪の上に並べていく。赤いキャンディケーンが2個。紫のギフトボックスが1個。金のギフトボックスが1個。銀のソックスが1個。3対2でトリコとサニーの勝利だ。トリコが邪魔さえしなければとゼブラは悔しそうに舌打ちした。
 飛び上がって喜んだサニーはさっそく木の根元に向かう。トップスターを両手で抱え上げて振り向いた拍子に、視界の隅に奇妙なものを見つけた。
「んだソレ?」
 ちょうどココの斜め頭上に、やけに小さなオーナメントがぶら下がっていた。近寄ってみると、それは首から下のないジンジャーマンだった。紐の色は銀色。足元には歯型のついた胴体部分。3人は一斉にトリコを見る。
「いやあ、ちっと小腹が空いてよ」
 食えるかと思ったけどやっぱり無理だった、と笑いながらポケットからチョコレートを取り出して口に放り込むトリコ。全く反省の色のない様子に、サニーはがっくりと肩を落とした。
 ちゃんと枝に結び付けられているとはいえ、首だけになったジンジャーマンは『美しくない』。よってオーナメントとしてのカウントは無効だと渋々サニーは認め、勝負は引き分けとなった。
「仕方ねえな。最後は全員で一緒にやろうぜ」
 誰のせいだと文句を言いながらサニーが触覚でトップスターを持ち、4人は順番にツリーに登る。先端はかなり細く、付近は足場となる枝も限られていた。話し合いの結果、少し下の位置でゼブラがサニーを肩車し、トリコとココが両脇から支える。
「危ないから気をつけて。慎重にね」
 サニーは天を目指してまっすぐ伸びた枝にトップスターを取り付けた。
 
 地面に下りた4人は並んでモミの木を見上げる。裏庭の片隅でひっそりと居心地悪そうに立っていたモミの木は、たくさんのオーナメントが飾られた立派なクリスマスツリーとして堂々と輝いていた。
 
 
 12月24日。一夜にして美しく飾り付けられたモミの木に、研究所の職員は感嘆の声を上げた。昨日まで誰も見向きもしなかったのが嘘のような人だかりができ、子供達は周囲にいくつも雪だるまや雪うさぎを並べている。しかしその中にサニー達の姿はなかった。
 
 窓の外に賑やかな声を聞きながら、マンサムは大きな溜息を吐いた。
「……で、この有様というわけか」
 目の前に並んだ4つのベッドには顔を真っ赤にしてうんうん唸っている少年達。ゼブラの額からずり落ちた氷嚢を載せ直してやり、ココの口から抜いた体温計を確認する。デジタル数字が示したのは平熱より約3度も高い数字。
 そう。彼らは風邪をひいたのである。
 朝食を食べに行くと言い張るトリコをベッドに押し込んで、サニーの3連発のくしゃみを背中に聞きながらその場を医療班に引き継いだ。向かった先は地下1階の倉庫。昨夜の出来事の一部始終は監視カメラ映像に記録されており、ベッドを抜け出した彼らが最初に向かったのがその倉庫である。
 開いたドアの前で茂松が頭を抱えていた。中を覗き込んだマンサムもがっくりと肩を落とす。
 床に散らばる大量のビニール、紙箱、緩衝材。4人が飾り付けに使ったオーナメントのパッケージだ。さらにパーティーで子供達に配る予定だった菓子類も無残に食い荒らされている。特に一龍が用意した金色の個包装チョコレートは1つも残っていない。トリコの鼻に見つかればおしまいだからと何重にも包んで密封したのに、余り物のオーナメントと同じ倉庫にしまっておいたのが運の尽きだった。
「まったく、面倒なことをしてくれたもんだ」
 一龍が今年のクリスマスパーティーにかける意気込みは並々ならぬものだった。昨年たまたまパーティーが緊急会議と重なってしまってやむなく欠席したところ、翌日トリコに「オヤジがいなくても楽しかったぜ!」と言われてしまったのである。ひどくショックを受けた一龍は、今年こそはと半年も前からサンタクロースの衣装を用意し、会議や外交のスケジュールを調整して準備していた。このチョコレートも納得がいくまで何度も作り直させた特注品だったのだ。山積みの書類を押しのけてうきうきと子供達が好きそうな包装紙を選ぶ姿に誰も文句を言うことができず、局長会議で「とにかくパーティーを無事にさっさと終わらせよう」という決議までしていたのに。
 館内放送でヘリポートに来るようにとの呼び出しがかかる。一龍が到着したのだ。茂松とマンサムは重い足取りで倉庫を後にした。
 
 
 その夜のクリスマスパーティー。スポットライトの中に現れたのは、ふわふわしたかわいらしいミニスカサンタの衣装を着た茂松とマンサムだった。IGOきっての強面2人は、唖然として静まりかえる参加者達の前で『あわてんぼうのサンタクロース』をスマイル全開で踊り、爽やかな投げキッスと共にステージを後にした。
 あまりにも衝撃的なその姿は伝説のステージとして職員の間で後々まで語り継がれることになる。そしてこの日以来、茂松はパーティーと名のつくものには姿を見せなくなったとか。


【The Green Score : あわてんぼうのサンタクロース】

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2011/12/24 22:00 | トリコ。

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