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2024/05/19 08:25 |
【あの日、サンタが歌った歌は】3.Postlude
クリスマステキスト最終話です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

一通り読み終わった後で、もう一方の色も読んでみると面白いかもしれません。
面白くなかったらすみません_(:3」∠)_

それでは皆様よいクリスマスを (´∀`)ノ






 後奏の余韻が消えて指揮者が両腕を下ろすと、ホールは盛大な拍手に包まれた。マンサムと茂松も惜しみない拍手を送った。
 少年達の表情は緊張から解き放たれた安堵感と大勢の観客の前で歌いきった達成感とで明るく輝いていた。ステージを降りたところでクッキーと花束を手渡された彼らは、嬉しそうにホールを出て行く。これから家族の待つ温かい家に帰り、明日の朝膨らんでいる姿を想像しながら枕元に靴下を吊るすのだろう。
 照明が元に戻り、楽団がメドレーの演奏を再開した。合唱の間壁際に控えていたウェイター達もカクテルを載せたトレイを手に動き出す。
 グラスに口をつけながら、茂松の顔はある場所に向けられていた。視線を追った先には、これだけの人間の中でもすぐに見つけられる、頭一つ飛び出た青年4人組がいる。
「悪ガキどもも随分と大きくなったものだ。あの頃の面影など見る影もない」
「図体ばかりでかくなりおって、まだまだ中身は子供のままですよ。さすがにあんな馬鹿なことはもうせんようになりましたが」
 手掴みでゲロルドのもも焼きにかぶりつくゼブラ。
 繊細に盛り付けられたホワイトアップルのコンポートをうっとりと眺めるサニー。
 チーズラビットのブレゼを口いっぱいに頬張ったままおかわりするトリコ。
 3人の様子に呆れながらネオトマトのカプレーゼを食べるココ。
 美食屋四天王と呼ばれるまでに逞しく成長した彼らに、あの日の幼い姿をぼんやりと重ね合わせる。思えばあの頃からゼブラは血の気が多かったし、サニーは美しさへの執着を持っていた。トリコは考えるより先に行動する性格で、ココは年のわりに落ち着いて大人しかった。片鱗はすでに見せていたというわけだ。
「あっ! あれオヤジじゃねえか?」
 トリコが指差した先に、金髪を逆立てサングラスをかけた一龍がいた。慌てて茂松と共に席を立つ。
 IGOの会長が現れたとあって、一部の出席者達の目の色が変わった。彼らがこのパーティーに参加した最大の目的は一龍に顔を覚えてもらうことである。彼のご機嫌をとってその影響力の恩恵にあずかろうと我先に挨拶しに群がる有象無象を慣れた様子であしらいながら、一龍はゼブラ達のところへと歩いてくる。
 ゼブラがハニープリズンを出所してから初めてのクリスマスパーティー、しかも四天王全員が揃うとあって、会議やら何やら一切合財を放り出して駆けつけたに違いない。入口の脇には必死で追いかけてきたのであろう秘書が汗だくでへたり込んでいた。
「メリークリスマス! 我が息子達よ! パーティーは楽しんどるか?」
 一龍は一人ひとりの顔を見ながら嬉しそうに笑った。
「メシがうめえ!」
「メシが足りねえ」
「シャンパンの種類がもうちょい多ければバッチリだったし」
「お前ら、会長に向かってそんな口のきき方をするんじゃない」
 口ぶりはバラバラだが、彼らも久しぶりに一龍に会えたことを喜んでいるようだ。
 一龍とトリコ達に血の繋がりはないが、たくさんいたグルメ細胞適合者の中でも一龍は特に4人をかわいがっており、また4人も一龍を実の父親のように慕っている。美食屋四天王に加えてIGO副会長と開発局長がぐるりと取り囲んでしまったので、何とかして一龍の気を引こうと躍起になっていた連中も尻尾を巻いてすごすごと退散していった。
「そうじゃ、忘れるところだった」
 ホット・ブランデー・エッグ・ノッグを飲み、クラッカーをつまんで楽しそうに話をしていた一龍は、おもむろにポケットを探り始めた。
「ほれ、手を出しなさい。ワシからのクリスマスプレゼントじゃ」
 取り出したものを4人の手の上に載せていく。まさか自分にまで回って来るとは思っていなかったマンサムは、促されて慌てて手を出した。その掌にちょこんと載せられたものを見て背筋が凍りつく。
 それは金色の小さな菓子包みだった。思わず横を見れば、茂松も同じ表情をしていた。
「そのチョコレートは特別製でな。よく味わって食べるんじゃぞ」
「おお! サンキューオヤジ!」
 忘れようにも忘れられないあの日の記憶がフラッシュバックする。あの悪夢の元凶となったチョコレートが、今まさに自分の手の中にあるのだ。
 青ざめた2人の前で、トリコ達は次々と包み紙を開けてチョコレートを口に放り込んだ。
「あれ、お2人は食べないんですか?」
「いらねえなら食ってやるぜ」
 一龍が、トリコが、ココが、ゼブラが、サニーが、笑みを浮かべてこちらを見ていた。


 
Fin.

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2011/12/24 22:00 | トリコ。

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