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2024/05/19 11:19 |
【つくしいオレが生まれた日なんだから全身全霊で祝うのはたりめーだろ。】2
サニー誕テキスト、2つ目です。
本当は5日中に投下するはずがこんな時間に。眠いです。。。

7日は何としてでも23:59までに最終話を投下しなくては!
頑張ります(`・ω・´)









■九月五日


 スカイプラントを登った遥か上空。標高数万メートルの高さに広がる雲の平原は、上昇気流によって舞い上げられた火山灰を含んだ栄養豊富な土壌として多種多様な植物を育んでいた。中でもその一角に生い茂る野菜達は、地上で栽培されているものの何倍も瑞々しい輝きと強く濃い香りを放っている。
 天空の野菜畑、ベジタブルスカイ。
 海よりも濃い青が広がる空の下、テリーは音もなく天空の大地に着地した。屈んだテリーの背から滑るように降りた小松は、酸素マスクを外して胸一杯に爽やかな空気を吸い込んだ。降り注ぐ陽射しは暖かく、冷え切っていた手足の指先に血が通い出すのを実感する。トリコの背中に括り付けられていたとはいえ、弾丸のようなテリーのスピードと積乱雲の恐怖で膝の震えが収まらなかった。
「お前またしわっしわになってんぞ小松!」
 トリコは大声で笑うと、そばに生えているキュウリをもいで小松に投げてよこした。かじり付いた瞬間の感動はあの時と少しも変わらない。夢中になって食べ進めるうちに、干からびたスポンジが水をぐんぐん吸い込むように、全身の細胞へと水分が行き渡っていく。やはりここの野菜は素晴らしい。
「これが小僧の言ってたベジタブルスカイってやつか」
 トリコと小松から少し遅れてゼブラが降り立った。彼を運んできたのはキッスである。以前乗った時に気に入ったらしく、今回も嫌がるキッスをかなり強引に捕まえて乗ってきた。おそらく、いや確実にココには許可を取っていないだろう。怯えたキッスの目を見れば一目瞭然だった。
「確かに鮮度はいいみてえだが、所詮はただの野菜じゃねえか。こんなんが本当に肉より美味いのかよ」
 スカイプラントに向かう道中で二人から話を聞いていたゼブラは、実際の野菜を目にしてからも半信半疑という顔をしている。しかし小松から受け取った白菜を食べると、その表情は一変した。
「欲しい食材は全部リストアップしてきたので、食べるのはこのメモにあるもの以外にしてください。万が一食べ尽くしちゃって持ち帰る分がなくなったりしたら困りますから。あと、動けなくなるまで食べたりしないでくださいね」
 猛烈な勢いで片っ端から野菜を頬張っていくトリコとゼブラに圧倒されつつも、小松はざっとメモを読み上げた。特に反応も返事もなかったが、とりあえずゼブラの耳には聞こえるはずなので問題はないだろう。
 小松は背負っていたリュックサックを下ろすと、中からメルク包丁とグルメケースを取り出した。小さいものから順番に収穫し、あらかじめ入力してきたデータを確認しながらグルメケースへとしまっていく。磨き上げた宝石のような輝きを放つ野菜達はこのままサラダやバーニャカウダにするつもりだった。きっとサニーも喜んでくれるに違いない。
 必要分を収穫し終えた頃、ちょうどトリコ達も消化を終えたようだった。用を足してすっきりしたトリコ達が走ってくるのと反対の方角に目を向けた小松は眉間に皺を寄せる。
「問題はここからなんだよなぁ……」
 ココのように特別な目を持たずとも、これから起こることは容易に想像がついた。
 
「お前のせいだろうが!!」
「オレに適応しねえてめえが悪い!!」
 もう何時間このやり取りを聞いているだろう。張り合う声は際限なくボリュームが上がり、ジェット機の離着陸の騒音にも引けを取らないレベルにまで達していた。うるさいという次元を超えて、もはや聴覚が麻痺してしまっている。
 小松は甘酸っぱいナスをかじりながら、準備してきたグルメケースの入力データを微調整していた。微調整といっても、数値を増やしては元に戻し、減らしては元に戻すことを延々と繰り返しているだけだ。つまりはただの暇つぶしである。
 小松のすぐ後ろで柔らかな芝生に寝転んだテリーは気持ち良さそうに寝息を立てていた。少し離れたところではキッスがマシュマロかぼちゃの草むらを散歩している。途中で目を付けたテニスボールほどの大きさの実を右へ左へと転がし、掬うようにして空中へ放り上げるとぱくんと飲み込んだ。
「ガア!」
 味が気に入ったのか、その鳴き声はとても明るかった。キッスはしばらく辺りをごそごそと探ったのち、小松の元へとやってきて嘴を開いた。転がり出てきたのは丸々として色艶のよい実が合計三個。
「ココさん、サニーさん、それにリンさんの分だね。ありがとう」
 ココがいつもしているのを真似て嘴を撫でてやると、キッスは嬉しそうにまた一鳴きして別の方角へと跳ねて行った。他にもココ達への土産として持ち帰れる野菜がないか探しに行くのだろう。
 小松達がいる丘から少し下った窪地で、トリコとゼブラは不毛な言い争いを続けていた。
「だからオレに合わせろって! オゾン草は二枚同時に葉を剥かなきゃダメなんだよ!」
「てめえが合わせられなかった結果がこのザマじゃねえか! 見ろ、半分以上腐っちまったぞ!」
 二人の足元には腐った大量のオゾン草がヘドロ沼を形成していた。陽射しに温められたヘドロからは悪臭が立ち昇り、トリコは止まらない洟を袖で拭い続けているせいで鼻の下が赤く腫れてしまっている。
 うすうす分かってはいたが、やはりこの二人が仲良く息を合わせることなど無理なのだ。お互いが「オレに合わせろ」と言い張るものだから何度やってもタイミングが合わない。オゾン草はそんな彼らを嘲笑うように固く葉を閉じ、失敗が七十本を超えたあたりで小松は数えるのをやめた。
「小僧、トリコと代われ! こいつじゃちっとも役に立たん!」
「ゼブラなんか無視しろ小松! 元はといえばオレと小松のコンビ結成記念食材なんだし、最初からお前とやりゃよかったぜ!」
「すみません。僕はサンサングラミーのために体力と集中力を温存しておきたいんです」
 小松は駆け寄って来たゼブラ達の目の前にサニーのメモを差し出した。『全部揃えるべし』という言葉から始まった食材リストの筆頭はオゾン草、そして二番目がサンサングラミー。以下、アメジストクラブ、純金クジラ、ムーンチーズ、宝モロコシ、首領ドングリと続く。どれも美しく、そして相応の捕獲レベルを有する食材ばかりだ。特にサンサングラミーは一般人の小松でなければ捕獲できない特殊調理食材であり、失敗は許されない。
「他の食材は分担できますけど、オゾン草だけはどうしてもトリコさんとゼブラさんに力を合わせてもらわなきゃダメなんです。ほんのちょっとでいいですから、お互いを尊重して……」
「「冗談じゃねえ! まっぴら御免だ!!」」
 ついに二人は殴り合いの喧嘩を始めてしまった。こうなるともう小松では止められない。慌ててグルメケースをリュックサックに詰め直してテリーの尻尾の下にしまい込む。テリーは興味なさそうに鼻をピスピスと鳴らした。
 小松は幼い頃に読んだ絵本を思い出していた。求婚者達の誠意を試すために難題を出した月の国の姫とサニーの姿が重なる。オゾン草を諦めて代わりの食材を揃えたとしても、彼は決して受け取ってくれないだろう。
 どうにかしてこの二人にやる気を出させなくては。喧嘩がひと段落した隙を狙って小松は携帯の短縮ダイヤルを押した。少し会話をしてから、へそを曲げて寝転がっているトリコに近付いて彼の耳に押し当てる。
「何だよ。サニーにでもかけてんのか? 別に話すことなんて……」
 ――もしもし。
 トリコは腹筋の力のみで跳ね起きた。驚いた顔で携帯を小松からひったくり、しっかりと耳に当て直して慎重に言葉を発した。
「も、もしかしてココか?」
 ――もしかしなくてもボクだよ。食いしん坊ちゃんはもうボクの声なんて忘れてしまったかい?
「そんなわけねえだろ! オレがお前の声を忘れるなんて絶対ありえねえ!」
 みるみるうちにきつく吊り上がっていた眉尻がなだらかに下降し、頬が緩んで柔和な表情へと変わる。会話の内容までは聞き取れないが、弾んだ声とあの顔を見る限りすっかり機嫌は直ったようだ。
 次に小松はリュックサックからタッパーを取り出してゼブラの所へ向かった。ジロリと睨み付けるゼブラに怯むことなく、彼の目の前でタッパーを開ける。中には飴色の角煮が一切れ入っていた。
「食べてみてもらえますか」
 ゼブラは無言で角煮をつまみ、口に放り込む。もぐもぐと顎を動かし、ゆっくり飲み込み、タレの付いた指先を舐め終わるまでの一連の動作を小松はじっと見ていた。
「セレ豚の角煮です。隠し味と照り出しのためにメロウコーラを使ってます。ゼブラさんのためだけに作ってきました」
 最後の言葉にゼブラの耳がピクリと反応した。しばらく心音や呼吸音に耳を澄ませていたが、やがて大きく裂けた口をさらに大きく歪ませた。
「次は丼にしろ。タレは多めだ。オレ以外の奴に食わせたら承知しねえぞ」
「はい!」
 電話を終えたトリコの表情は別人のように晴れやかだった。ゼブラの全身を覆っていた殺気も消えている。雰囲気の変化を察したのか、テリーは体を起こし、キッスはピーマンの群生地帯から戻ってきた。
「さっさとオゾン草を手に入れてサンサングラミー獲りに行こうぜ」
「ああ」
 残り少なくなったオゾン草の一つによじ登り、二人はそれぞれ選んだ葉に同時に手を掛ける。
「「せーのっ!!」」
 息をぴったり合わせて引っ張った瞬間、頑なだった葉は羽衣を脱ぐようにするりと剥がれた。
 
 
 
「まったく、小松君はボクらの扱い方が上手だな」
 電話を切ったココは呆れ半分に溜息を吐いた。ぼんやりと脳裏に浮かぶ映像は、無事オゾン草を手に入れて喜んでいる三人の顔である。この調子なら残りの食材も明日中にすべて手に入れられるだろう。
 食卓に料理を並べていると、鍵の開く音がした。
「ただいまー。もー超疲れた。脚パンパン」
「運動不足だな。そのうち土管足が酒樽足になっちまうぞ」
「ヒール靴のせいだし! こんなに歩かされるって分かってたらスニーカー履いたのに! しかも途中で急にルート変更とかマジありえない!」
「内装工事がどこまで進んだか見に行くって昨日言ったし! ちゃんと聞いとけ!」
「はいはい、喧嘩はそこまで。二人とも荷物を置いたら手を洗っておいで」
 ココに急かされたリンは頬をぷうっと膨らませたまま洗面所へと向かう。サニーは手に持っていたブランドショップの紙袋をココに渡した。
「明日の前らのスーツ。クローゼット掛けといて」
 ココが四人分のスーツを吊るしている間にサニーはキッチンで手を洗い、三人はあたたかな湯気の立ち昇る食卓に着いた。
「「「いただきます」」」
 今夜のリクエストはシーフードパエリアとサングリアである。二人がサングリアで喉を潤している間にココはパエリアを取り分けた。リンの皿にはイカを、サニーの皿にはエビを多めに載せてやる。
「ねー、何でお兄ちゃんの誕生日だけパーティー会場建ててくれるの? 贔屓じゃん」
「あれはIGOじゃなくてサニーが出てる広告のスポンサー企業が建ててるんだよ。パーティーが終わった後は『四天王サニー監修』って付加価値の付いた物件として引く手あまただしね」
 オレンジジュースを飲みつつ、昨日見せられたパンフレットの企業名を思い浮かべた。あれは確か美顔器メーカーだったか。
「今年のヤツはエステサロンにするらしーぜ。まだ完成してもいないのに来年まで予約で埋まってるってよ」
 ナイフとフォークで器用にエビの殻を剥きながら、サニーは自慢げにふふんと鼻を鳴らした。


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2012/09/06 01:41 | トリコ。

<<スライディング土下座ーーっ!! ⊂(゚Д゚⊂⌒つ=3 | HOME | 【つくしいオレが生まれた日なんだから全身全霊で祝うのはたりめーだろ。】1>>
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