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2024/05/19 11:03 |
【つくしいオレが生まれた日なんだから全身全霊で祝うのはたりめーだろ。】1
3日中に投下するはずが間に合わなかった!ショック!!

はい、サニー誕テキスト投下開始です。
前回のトリコ誕テキストが5月25日の当日中に終わらなかった反省を生かし、誕生日当日よりも前から始めることにしました。
我ながら無謀です。全然書き終わってません。ノープランなのでどんな結末になるのか私にもまだ分かりません。
でも頑張る!(`・ω・´)

コメントへのお返事はサニー誕が終わってからになります。ご了承ください(´∀`)








■九月三日


 八月が終わったというのに連日のうだるような暑さが和らぐ気配はない。峠を越えたとはいっても、せいぜい夜風が心地よくなったとか、日が落ちるのが早くなったとか、その程度だ。
 それでも、捲られたカレンダーには赤や黄色で描かれた木の葉が舞い、行楽の装いをした少年少女のキャラクター達は弁当と水筒を手に山を登っている。暦の上ではもう秋なのだ。
 
 分厚い強化アクリルの向こうでココとサニーが対峙している。二人はお互いが手を伸ばせば握手ができるくらいの距離を置いて立っていた。天井、壁、床のすべてが白で統一された室内には、彼らの他には出入り口のドアと天井のスピーカーと監視カメラしか見当たらない。
 ココが少しも息を乱すことなく立っているのに対し、サニーは今にも床に膝を付きそうなほど背を丸め、肩で大きく息をしている。肌を赤紫に染めたココは、腕を組んで溜息を吐いた。
 ――もうギブアップか。大口を叩いていた割には大したことなかったな。
 ニヤリと弧を描いた口元から白い歯が覗く。マイクを通して聞こえる小馬鹿にした口調に、軽く顎を上げて相手を見下ろす高慢な態度。普段の温厚で優しい彼とはまるで違う様子に小松はうろたえた。
「あ、あれって本当に本物のココさんなんですか?」
「正真正銘本物だし。つかココ以外にあんなんできる人とか見たことないし」
「それは確かにそうですけど……」
「ココは毒使う時だけスイッチ入るからな。下手したらゼブラより好戦的になるぜ」
 リンやトリコは見慣れているらしく、少しも驚いた気配はなかった。甘ったるい香りの漂う部屋の中で、二人の一挙手一投足に目を凝らしているのは小松だけである。消耗したサニーを冷たい眼差しで見つめるココの横顔はゾッとするほど綺麗だった。
 ――誰がギブするっつったよ! 全然効いてねーし! ココこそ占いばっかやってっから鈍ってんじゃねーの?
 屈めた体をぐっと起こしてサニーは叫んだ。しかし、真っ赤に充血した目と口元に滲む血は彼の言葉を否定している。
 ――ふうん。そこまで言うなら少しだけ本気を出そう。
 ――っきまでは手加減してたのかよテメ!!
 ――あの程度がボクの実力だと思わないでほしいね。せっかくだから挑発に乗ってあげるよ。
「あいつ、そろそろ決める気だな」
 ゼブラの言葉に、小松はごくりと唾を飲み込んだ。
 ココは悪の親玉のような笑みを浮かべてサニーに一歩近付いた。陶磁器のような頬を撫で、そのまま人差し指と中指を彼の唇の間に差し込む。サニーの体が強張ったのを見て、ココは愉しそうに目を細めた。
 ――四〇二番。
 ココの唇の動きをじっと見つめるサニーの表情は変わらない。リンは手元の書類に小さく丸印を書き込んだ。
 ――七十九番。
 頬がわずかに引き攣ったがそれ以外に変化はなかった。リンはページを捲ってまた一つ丸を書き入れる。ココはしばらくサニーの顔色を観察していたが、やがてぼそりと呟いた。
 ――十六番。
 途端にサニーは血相を変えてココの腕を掴み、口の中から毒色の手を引き抜こうとした。しかしココは残りの指でガッチリとサニーの顎を掴んで離さない。サニーは口の端から白い泡を噴き出しながら必死にもがいて振りほどこうとしていたが、やがて抵抗しなくなった。小刻みに痙攣する全身からは力が抜け、顎だけを支えられてだらりとぶら下がる格好となる。二、三度頬を叩いて気を失っていることを確かめ、ココはサニーを床に横たえて右手を高く上げた。技量測定終了を告げるブザー音が鳴り、ドアを開けて防護服に身を包んだ無数の職員がなだれ込んでくる。
 担架で担ぎ出されるサニーを見送ったココはこちらに手を振ってきた。その顔についさっきまでの邪悪さは微塵も感じられない。小松の不安げな表情に気付いたココは穏やかな声で言った。
 ――大丈夫、ちょっと気絶してるだけだから。少し休んだらピンピンして戻ってくるよ。
 職員の一人からタオルとドリンクを受け取り、ココも部屋を後にした。
「サソリゴキブリ、オクトパースネーク、サンズガワドクトカゲ……。何だよ、引っ掛かってんのって庭にいた頃と同じ毒じゃねえか」
「どうせ見た目が気色悪いとかそんな理由で抗体作ってねえんだろ。サニーはどうでもいいことにばっかりこだわりやがるからな」
 書類を眺めているトリコは呆れ顔だ。ゼブラは後片付けに動き回る職員には目もくれずに大きなあくびをしている。小松はずっと気になっていたことをリンに聞いてみることにした。
「サニーさんの技量測定っていつもこんな感じなんですか?」
「だいたいそーかなー。お兄ちゃんの場合は猛獣相手にバトるよりも対毒試験の方がウェイト大きいんだ。ほら、触覚使う分ゼブラやトリコよりも毒の被害受けやすいからさぁ」
「あ、いや、そっちのこともそうなんですけど、その……」
 言いにくそうにしながらゼブラやトリコの手元に目線を走らせる小松に、リンは彼が言わんとしていることを汲み取った。
「いーのいーの! ここ飲食禁止じゃないから!」
「そういう問題なんですか……?」
 イチゴポッキーに手を伸ばしながらリンはあっけらかんと笑った。
 サニーの技量測定と聞いて小松は小松なりに心の準備をしてきたのだが、通された部屋で彼を待っていたのはテーブルの上に山盛りになった菓子と大量のジュースのペットボトルだった。よく見れば壁沿いにも段ボールに入ったビスケットやマシュマロが積み上げられており、スーパーのバックヤードさながらの光景に入る部屋を間違えたのかと思ったほどだ。一足早く来て菓子袋を開けているリンの姿がなければそのまま部屋を後にしていただろう。
 強化アクリルの向こうでサニーがココの毒に耐えている間、小松以外の三人はまるでテレビの娯楽番組でも見ているかのように寛ぎながらひたすらチョコレートやクッキーを食べていた。技量測定が終わるまでの約二時間でほとんどのスナック類は空になり、ゼブラは潰した段ボールを積み上げて椅子代わりにしていた。
「なんつーかさぁ、対毒試験ってパッとしないんだよね。二人だけでできるから正直うちらここにいる意味ないし」
 リンはくわえたポッキーをプラプラと揺らしながら散乱したゴミをポテトチップスの空袋に放り込み始めた。小松も慌ててテーブルを拭く。
「確かになあ。オレも何年かぶりに見たけど、やっぱ地味だよな」
 トリコはバケツ型容器からポップコーンを貪りながらコーラのペットボトルを開けた。それを横からひったくり、ゼブラが一気に飲み干す。
「おい! それオレのコーラだぞ!」
「てめえのじゃねえよ。こいつぁ元々オレが持って来たんだ」
 チョコレートでベタベタに汚れた手でペットボトルを握り潰し、トリコめがけて投げつける。勢いよく立ち上がったトリコに応えるようにゼブラも立ち上がり、狭い室内でさっそく喧嘩が始まった。リンは取っ組み合う二人の隙間を縫って残り物の菓子を器用に集めると、ドアを開けて小松を手招きした。巻き添えを食ってはたまらないので、小松もリンに続いてそそくさと逃げ出した。
 
 小松が帰り仕度を済ませて階下のロビーに降りると、ココとサニーがソファに座って話している姿が見えた。ココの言った通り、サニーはすっかり顔色も良くなり元気を取り戻している。小松に遅れてやって来たリンは、手に先ほどの菓子をぎゅうぎゅうに詰め込んだ袋を持っていた。
「んだそのすげー量の菓子! 前は相撲取りにでもなんのか!」
「こんな量一人で食べるワケねーし馬鹿兄貴!」
 ぎゃんぎゃんと子犬のじゃれあいにも似た兄妹喧嘩にココと小松は苦笑した。喧嘩するほど仲がいいとはよく言うが、今ここでうっかり口にしようものなら両者から即噛みつかれるだろう。
 ふと、小松はココの足元に黒いバッグが置かれていることに気付いた。ちょうど旅行用に数日分の着替えを詰めたくらいの大きさである。ココに声を掛けようとしたところで、思う存分気の済むまで殴り合ったらしきトリコとゼブラが降りて来た。
「ココー、腹減ったから何かハントして帰ろうぜ」
 ぐうぐうと鳴る腹をさすりながら、トリコは当然のようにココの隣に立って肩を抱いた。トリコとココがいい仲なのは親しい者の間では周知の事実であるし、ハントに出掛けていない時は同棲しているのと変わりないほどにトリコがココの家に入り浸っているのも事実だ。だから小松も、品がないだのなんのと文句を言いながらもココはトリコと一緒に夕飯の食材を調達して帰るのだと思った。ところが、ココはそっとトリコから体を離した。あれ、と首を捻ったトリコの鼻先にサニーが人差し指を突き付ける。
「メシは自分でどーにかしろ。ココは今日から七日までオレん家に泊まるから」
「はあ!? 何だよそれ聞いてねえぞ!」
 トリコは驚いた表情でココの腕を掴もうとしたが、今度はリンが二人の間に割り込み、手に持っていた菓子袋を強引にトリコに持たせた。
「心配しないで! うちも一緒だからお兄ちゃんとココ二人っきりじゃないし!」
「リンちゃん、その言い方はかえって誤解を招くと思うんだけど」
 ココは足元の鞄を肩に掛けた。旅行用の荷物だろうかという小松の予想は的を射ていたのだ。
「誕生日プレゼントを贈る代わりに、泊まりこみでサニーの食べたい料理を作ったりとか色々してやるんだよ。お手伝いさんみたいなものさ」
「うち今日ラザニア食べたいー! あとティラミス!」
「前が決めんな! 今夜は天ぷらと葛きりだっつーの!」
 賑やかな兄妹に挟まれたココは何とか「八日の朝にはグルメフォーチュンに帰るよ」とだけ言うと、言い争っている二人を宥めながら去っていった。
 ココの手料理、そしておそらくはココ自身を堪能しようと思っていたであろうトリコは呆然と立ち尽くしていた。誕生日プレゼント代わりと言われてしまっては無理にココを引き留めることもできない。しょんぼりとうなだれるトリコを心配そうに覗き込んでいた小松だったが、トリコと同じく腹を空かせたゼブラにひょいと担ぎ上げられた。
「そこのアホは放っとけ小僧。それよりメシだ。こってり味の濃いラーメンが食いてえな」
 ゼブラは本当にトリコを置いてスタスタと歩き出す。小松は米俵のように担がれたままトリコに声を掛けた。
「トリコさんも一緒に食べましょうよ。餃子と炒飯も付けますから」
「……ニンニク多めで頼む」
 凛々しい眉毛を情けなくハの字にしたトリコはとぼとぼとゼブラの後をついてきた。
 
 実は、別れ際にサニーは小松のポケットに一枚のメモを忍ばせていた。小松がメモの存在に気付いたのは、たらふくラーメンと餃子と炒飯を食べ、しこたまビールを飲んで酔い潰れたトリコとゼブラの高イビキを聞きながら皿を洗っていた時のことである。
「えええええ!? 無理ですよサニーさん!!」
 当然ながら、小松の絶叫はサニーの耳には届かなかった。

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2012/09/04 00:21 | トリコ。

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