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2024/05/19 11:35 |
【生誕祭!】楽-4
トリコ誕生日テキスト、続きです。
楽パートもついに終わります。



そして、次回でやっと完結です!なんとか6月中に終わりそう!










「あっ! てめこの野郎!」
 口を押さえているココの両手を引き剥がそうと試みたが、きっちり脇を締めているのでびくともしない。余裕綽々に勝ち誇った笑みを浮かべる顔が何とも憎たらしくて頬が引き攣った。
 だがしかし。ココは大きなミスを二つ犯している。顔の前に手をかざしても一向に警戒する様子がないので、そのまま親指と人差し指で形のよい鼻をきゅっと抓んだ。
「んむっ!?」
 一つ目。両手で口を塞いでいるので、鼻を塞がれたら息ができない。ココは鼻を抓む指を振りほどこうと必死に頭を動かすが、こちらは多少左右に手が揺れるだけである。涙目になってじたばたともがいていたココはついに堪えきれなくなって手を離した。
「ぷはっ! ……んん!!」
 ココの手を押さえ込むようにして抱き締めると、唇の隙間に舌を捻じ込む。ココの舌の上でとろけたチョコレートは虹の実ソースの芳醇な香りと混ざり合って底の知れない深みを持つ甘さを醸し出していた。
 二つ目。ココの口に入ったくらいで諦めるわけがない。もちろんケーキと合わせて食べられないことは残念だが、それなら代わりにココの舌と一緒に味わえばいいだけの話だ。息つく間もなく段階的に変化する虹の実の味は初めて食べた時の感動を呼び起こし、全身が喜びに震える。最初は抵抗していたココもまた、口の中に広がる衝撃に酔いしれているのか徐々に大人しくなった。
 一滴もこぼすまいと角度を変えながら熱い舌を絡め合っていると、舌先に歯とは違う固いものを感じた。しかも二つ。我に返ったココの抵抗にもめげずに何とか小さい方を奪うと、唇を離して掌に吐き出した。
「なるほど。これがチョコの中に入ってたから逃げたのか」
 気まずそうに目線を落としたココも口の中から大きい方を取り出す。
 それはシンプルな指輪だった。宝石もなければ凝った細工もない平たいシルバーの指輪。わざわざ同じ形の物を大小で用意したということは、おそらく自分とココの左手の薬指にぴったり嵌まるのだろう。いつの間にサイズを測ったものか、まったくサニーには油断も隙もないと苦笑いするトリコとは対照的に、ココの顔色は冴えなかった。
「この手の冗談は嫌いだよ」
 指輪を睨みつける顔の中心、眉間に深く刻まれた皺に人差し指を突き立てる。ココは上目遣いにトリコを見た。
「ココは余計なこと考えすぎなんだよ。これはただの指輪だ。それ以上でもそれ以下でもねえ。これがどんな意味を持つかなんて付けてる本人達が決めるもんだろ。オレはココとペアになってる物って今まで一つも持ってなかったから単純に嬉しいけどな」
「ボクだって他の物だったら笑って受け取れたさ。でも、指輪だけはダメだ」
 ココは顔を逸らして指から逃れた。
「男同士でペアリングだなんて滑稽じゃないか。マリッジリングのように一生を誓い合うわけじゃなし、お互いを束縛する証にでもしろっていうのか? 男女の恋人同士がやるようなことを真似て何になるのさ。いつもは気持ち悪いだの何だの言うくせに、サニーが何を考えているのかボクにはさっぱり分からない」
 刺々しい言葉を吐き出すココの顔は暗く沈んでいて、怒っているようにも悲しんでいるようにも見える。またいつもの悪い癖が出たな、と思いはしたが口には出さなかった。余計なことを言おうものなら手が付けられないくらいへそを曲げてしまうと分かっているからだ。
 ココはどうにも男同士ということを気にしすぎているきらいがある。結婚できない。子孫を残せない。世間が許さない。そんな瑣末なことに囚われて時間を無駄にするくらいなら、美味いものを腹一杯食べて飽きるまで抱き合ってくたくたになって眠った方がよっぽど有益だと思うのだが。
 この面倒くさい雰囲気をどう打開しようかと無い知恵を絞っていると、ふいにココの頭がトンと胸に触れた。
「…………なーんてな」
 直前までの湿っぽさはどこへやら。その声は明るく、顔を上げたココはいたずらっぽい笑みすら浮かべていた。
「せっかくのお前の誕生日にまでつまらない意地を張り通すつもりはないさ。トリコの言う通り、ただのお揃いの指輪だもんな。ほら左手出せ」
「え? お、おう」
 状況が飲み込めないまま、言われるままに左手を出す。ココはポケットチーフで指輪を拭うとトリコの薬指に嵌めた。お前も、と顎をしゃくられて、慌てて同じように指輪を拭ってココの薬指に嵌める。飾り気のない指輪は皮膚の硬い武骨な自分の手にも柔らかく滑らかなココの手にもしっくりと馴染んだ。
 あんなに嫌がっていたのが信じられないくらいの変わり様にキツネに抓まれた気分だ。ちょっと面白くない。ぶうたれた顔を見てココが笑うものだからさらに面白くない。
「嫌じゃないなら何で逃げたんだよ」
「あの場で指輪が出てきたら、お前のことだから人目も気にせず嵌めようとしただろう? さすがにそれは嫌だ」
「でも、オレが追いついてからも抵抗してたじゃねえか。鍵掛けて、後ろに隠して、しまいにゃ食っちまいやがって。そこまでする必要ねえだろ」
 言い終わるか終わらないかのうちに、ぐっと首が引き寄せられた。重ねられた唇の間から忍び込んできた舌がぞろりと口内を舐めて去っていく。離れてもなおぎりぎり唇の触れ合う位置で、小さくココが笑った。
「それは、お前とこうしたかったから。……って言ったらどうする?」
「……っ!」
 ココを壁に押さえつけ、下半身の重い疼きに任せて噛み付くようにキスをした。密着した体の間で主張している自分の股間の隆起がはっきりと感じられて余計に興奮する。ただでさえチョコレートと虹の実なんて催淫作用の塊みたいな組み合わせを口にしているのだ。もうそろそろ理性が弾け飛んでもおかしくはない。
 深く深く、お互いの唇が溶けるかと思うほど貪って、ココの乱れた呼吸を落ち着かせるべく顔を離した。とろんと潤んだ瞳で見上げてくるその顔はたまらなくエロい。ふっくらと充血した唇が半月型の弧を描くのもエロい。
「はい、ここまで」
「へ?」
 気付いた時にはもう腕の中にココの姿はなく、横に立ってしれっとした顔で口元を拭いていた。
「お前は十五分後からテレビ局の囲み取材だ。ちゃんと指輪外しとけよ。それからそっちも処理しておけ」
 そっち、と指で示されたのはがっつりテントを張っている股間なわけで。
「いやいやいやちょっと待て! さんざん煽ったのお前だろ!?」
「はて、何のことやらさっぱり分からないな。ボクは先に戻ってるよ」
 ココは外した指輪をポケットにしまい、ドアを開けてスタスタと出て行ってしまった。呆然と立ちつくすしかないだろう、こういう場合。
 襲いかかる疲労感にがっくりとうなだれると、さっきまで空だったポケットの中に何かが入っていることに気付いた。金のプレートに部屋番号が刻印されたキーホルダーの付いた鍵が一つ。これは最上階にあるVIP専用スイートルームの鍵だ。それからもう一つ、四つ折りのメモも入っていた。
『誕生日おめでとう』
 丁寧な筆跡の最後に小さな赤紫の染みがぽつんと添えられている。かすかに漂うのは甘酸っぱい毒の香り。
「……あとで覚えてろよ」
 もわもわと広がり始めた淫靡な妄想を必死にかき消し、トリコは近くのトイレへと駆けこんだ。
 
 ちなみにその後、どうにか股間は収めたもののうっかり指輪を付けたまま囲み取材に臨んでしまって激しい質問攻めに遭ったり、広報局のナーロイド局長が鬼の形相で取材規制をかけたり、気球のように膨らんだサニーの髪の中にココが一時間立て籠もったりと色々あったのだが、それはまた別の話。


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2012/06/29 00:43 | トリコ。

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