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2024/05/19 10:45 |
【生誕祭!】楽-3
トリコ誕生日テキスト、続きです。
本当は今回で楽パートが終わるはずだったんですが、他に比べてだいぶ長くなってしまったので分けました。
なのでちょっと短いです。


アニトリのオープニングにゼブラがついに登場しましたね!
やっと四天王揃い踏み!









「ほお、こいつは……」
「すごいな、本物そっくりだ」
「っすが松! パーフェクト!」
「何だこりゃあ?」
 銀のドーム型の蓋を開けて現れたのはフグ鯨……の形をしたケーキだった。ゼブラの皿には毒化をイメージした紫色のフグ鯨、サニーとココの皿には白いフグ鯨、そしてトリコの皿には毒袋除去後の黄金のフグ鯨が鎮座している。ぽってりと丸みを帯びた形や黒くつぶらな瞳が忠実に再現され、遠目に見れば本物のフグ鯨と間違えてもおかしくはない出来栄えだ。
「リーガルマンモスやサラマンダースフィンクスも考えたんですけど、ケーキにした時に一番かわいらしい形になるフグ鯨にしてみました。四つとも違う味のスポンジとクリームを使ってます」
 ダラダラと涎の滝を流しながら食い入るようにケーキを見つめていると、ココがわざとらしい咳払いをした。サニーはまだ褒め足りないようだったが、ゼブラに急かされて呆れながら手を合わせた。
「「「「いただきます!」」」」
 惜しげもなくたっぷりと金粉がまぶされたフグ鯨にナイフを入れる。スポンジは淡い黄色で、白いクリームからはまったりと濃厚な香りが溢れ出して来た。一切れ口に含むと程よい苦みを持った蜂蜜の甘みが広がり、洋ナシの爽やかさが後味をさっぱりと纏め上げる。前を見れば、サニーが勝手にココと自分のケーキの尻尾部分を交換していた。
「トリコさんはハニードラゴンの蜂蜜を練り込んだスポンジに、だるまラフランスのピューレ入りクリーム。ココさんはネオトマトのスポンジとレアチーズクリーム。サニーさんはキューブオレンジのスポンジとミルクジラのミルククリーム。ゼブラさんはカカオオカミのブラックチョコレートスポンジにグレープザウルスの果汁入りクリームです。さらにですね……って、ゼブラさん一口で食べちゃったんですか!!」
 皿にわずかなクリームを残して毒化フグ鯨はゼブラの口の中に収まっていた。あのクリームだけでも舐めてみたいと様子を窺っていると、もぐもぐと口を動かしていたゼブラの右頬がいきなりゴルフボールのような形でヒョコッと飛び出した。
「おい小僧、チョコの球が入ってんぞ。中から違う味のドロッとしたもんも出てきやがった」
 自分のケーキをほじくってみると、ちょうど中心辺りにゼブラの言うようなチョコレートの球体が埋まっていた。サニーはもう球体を割って中から出てきた液体をケーキに絡めて食べている。
「もしかして毒袋かい?」
「そうです! さすがココさん!」
「何ぃ、毒だと? 小僧てめえ何てもん食わすんだコラア!!」
「本当に毒なんか使うわけないじゃないですか! 中身は虹の実のソースです!!」
「はは、小松君の料理は本当に細かいところまでこだわ……」
 ココがケーキから覗いた球体を見て固まった。ぎこちない不自然な動きで小松を見上げ、次いでサニーを見る。小松はニコニコと笑い、サニーは一瞥もくれずに自分のケーキを食べていた。ココはどうしたというのだろう。横からケーキを半分失敬してもまるで気付かなかった。うん、レアチーズもいける。
「トリコもやってみ。虹の実ソースパネェ美味いぜ」
「ん? ああ」
 ではさっそく、とナイフを構えた瞬間。目にも止まらぬ速さで伸びてきた手に球体は攫われ、目の前から姿を消した。ぽっかりと穴の開いた黄金のフグ鯨は変わらぬ表情で寝そべっている。
 もしこれがゼブラの仕業だったとしたら、奪ったチョコレートをわざと見せびらかしながら齧るだろう。小松はそもそもそんなに速く動けるわけがないし、サニーは正面の席に座っているので物理的に手が届かない。トリコの隣に座る犯人は四人の視線を一身に浴びながらテーブルクロスの下に手を突っ込んで顔を背けていた。ココの前にある半身のフグ鯨もまた、トリコのケーキと同じく球体を失って腹の中心に空洞ができている。
「コ……ココさん?」
 弾かれたようにココは立ち上がり、全速力で駆け出した。後を追おうとした途端ココの気配が消える。
「ちょ、あいつ消命とかどんだけマジ逃げ?」
「サニー、あと頼んだ! オレ達のケーキちゃんとゼブラから守っとけよ小松!」
「ええええええええええええええ!? 無理ですよぉっ!!」
 小松の絶叫、サニーの溜息、ゼブラの不気味な笑いを背中に聞きながら、トリコはフロアを飛び出した。
 
 人気のない廊下をひたすら走る。いくら気配を消しても、水にでも飛びこまない限りこの嗅覚までは欺けない。レアチーズやネオトマトの香りとココの手の中で溶け始めたチョコレートの匂いは至る所に痕跡を残し、確実にトリコを彼の元まで導いてくれる。
 丁字路を左に曲がり、階段を駆け下り、見慣れた廊下を走りながらじわじわと距離を詰める。やがて足音を耳でも捉えられるくらいまで近付いた時、曲がり角の先でドアを閉めて鍵を掛ける音がした。この廊下の行き止まりにあるのはココの部屋だ。案の定、『ココ』と書かれたネームプレートを掲げたドアのノブにはチョコレートの指紋が付いていた。一応確認したが鍵もしっかり掛かっている。
「ココ。コーコ。開けろ」
 軽めにノックするが返事はない。人の気配もない。けれどチョコレートの甘い香りが中からプンプン漂っている。もしかしたらココはこのまま無視を続ければ諦めると思っているのかもしれないが、あいにく食べ物には人一倍執着する性質なのだ。横取りされた理由も聞かずに許してやれるほど自分の器は大きくない。こうしている間にもきっとチョコレートはどんどん溶けている。
「開けねえなら力ずくで開けるぞ」
 少し物音がしたが、それでもドアが開く気配はない。鍵を壊せば警報装置が作動して大騒ぎになるから、トリコが壊すはずはないと高を括っているのだ。
 仕方ない。できればこの手は使いたくなかったのだが。
 溜息とともに廊下の隅のパネルを外してキーホルダーを取り出すと、ぶら下がった鍵の内の一本を差し込んで捻った。軽い金属音がしてあっさりと鍵が開く。
「……よお」
 光の差し込んだ室内に、消命が解けて目をまん丸に見開いたココが立っていた。
「お、お前、いつの間に合鍵なんか作ったんだ! 聞いてないぞ!」
「だって言ったら鍵換えるだろ」
「当たり前だ!」
 後ろ手にドアを閉めるとココはとっさに両手を体の後ろに隠して後ずさった。この期に及んで往生際が悪い。
「さあ、もう逃げ場はねえな。オレのチョコ返してもらおうか」
「嫌だ」
「何でだよ。理由くらい教えろって」
「断る」
 壁際まで追いつめてもココは首を縦に振らない。チョコレートの香りはどんどん強くなっている。もうかなり溶けてしまっているだろう。じれったくなって無理矢理ココの後ろに手を突っ込み、身を捩って逃げようとするところを両脚と片手で押さえ込んだ。
 これで勝負あったかと思ったが、ココは器用に体勢を変えてしまうのでなかなか手を捕まえられない。右手を差し入れれば左に逃げる。ならばと左手を差し入れれば微妙に腰を下げてしまうので届かない。それでも執拗に追い立てるうちに指先が何度か掠るようになってきて、もう少しで手首が掴めそうだと気が緩んだ時、ぬっと顔の前にチョコレートを握った手が現れた。急に鼻先に突き付けられた強い香りに思わず怯んだ隙に、ココは二つのチョコレートを自分の口の中に押し込んだ。


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2012/06/27 23:48 | トリコ。

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