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2024/05/19 10:45 |
【生誕祭!】楽-2
トリコ誕生日テキスト、続きです。
あともうちょっとかかります。書き終わってはいませんが、ゴールは見えてきました。


気付けばカリスマの誕生日から1カ月が経過しようとしています。
なんてこったい。




 






 つぶ貝の実と黒草のサラダをつまみにガウチステーキを食べていると、仕事が終わって駆け付けてきたらしい二人が現れた。
「トム! スマイル! お前らよく間に合ったな!」
「せっかく招待状もらったからよぉ、カミさんに尻ぶっ叩かれながら釈迦力んなって働いてきたぜ」
 トムの誕生日プレゼントは特大バブリートロだという。もう厨房に搬入済みらしいので、今頃小松が格闘しているだろう。さらに愛妻お手製だというギラギラヘビの皮を加工した小銭入れももらった。
「大型案件もだいたい落ち着いたし、今日は何年かぶりの定時上がりさ。トリコの誕生日さまさまだ」
「それはいいけど、お前ちゃんと寝てんのか?」
 明るい声とは裏腹に目の下にどんよりとした濃いクマが刻まれているスマイルは、急にふっふっふと怪しい笑いを浮かべたかと思うと懐に手を突っ込んだ。ジャジャーン! とご丁寧に効果音までつけて取り出したのは、なんと新しいスイーツハウスの設計図である。
「今度は五階建てかよ! すげえ、天守閣まで付いてんのか!!」
「この四ヶ月、寝る間も惜しんで書き上げたからな。今度こそ大事に住め……いや、食え……よ……」
 そう言うなり、スマイルは音もなくその場に倒れて気を失った。どのくらい寝ていなかったのかは気になるところだが、そんなにしてまで自分のために書いてくれた新居は何とも贅沢な造りで想像するだけでも腹が鳴る。ちょうど一昨日今の家を食い尽したところだったし、さっそく明後日にでもテリーやオブサウルスと一緒に材料を集めに行くとしよう。
 ステージ脇のDJ卓でぽんこちがレコードを換える。音楽にはあまり詳しくないので何の曲かは知らないが、Barぬもんちゅがで耳にしたことのある曲だ。ステージ上でちはるマスターが哀愁を漂わせつつ陽気にブレイクダンスを踊っているから間違いない。
 ある程度時間が経つとビュッフェの周囲は落ち着き、数人の塊になって話に花を咲かせている姿があちこちに見られるようになった。もう他の出席者に遠慮する必要はなさそうなので、先ほどから目を付けていたグレイトレッグの塩釜焼きを二十人前だけ取り分けてもらった。バブリートロの握りは八十貫。どちらも抜群に美味い。
 まとめてぺろりと平らげると、どこか覚えのある肉の匂いに誘われた先ではトリコすら入れそうな大きな蒸籠が湯気を立てていた。蒸されていたのは般若パンダの羽衣レタス包みで、シンプルな調理法ながら般若パンダの旨味を十二分に引き出した素晴らしい味わいである。予想通り蒸籠の後ろの花には『ライブべアラーより』というプレートが添えられていた。
 混み合うフロアの中でただ一カ所、隅に据えられた丸テーブルだけはあまり近寄る者がいない。青い顔をしたウェイターがひっきりなしに料理を運んでいるところを見ると誰のために用意された席かは一目瞭然だ。
「よおゼブラ! 食ってるか?」
 山盛りに積み上げられたにんにく鶏の唐揚げを頬張るゼブラは、ちらりと見上げると脂でギトギトになった手を拭くこともせずにテーブルの下をごそごそと探り黄色い包装紙に黒地にオレンジの水玉模様のリボンが掛かった箱を突き出した。リボンの下には『愛しのゼブラちゃんへ』と書かれたメッセージカードが付いている。
「どう見てもラブ所長がお前に宛てたプレゼントだろ!」
「オレはいらん」
 ポイと放られてはキャッチしないわけにもいかず、不可抗力で受け取ってしまった。まあ中身を見るくらいはいいだろうと開けた途端、強い目眩によろめく。ぼんやり霞んだ視界に浮かび上がったのは先程まではいなかったラブ所長の姿だった。年上の包容力、美しい黒髪、長い睫毛に縁取られた物憂げな瞳、むしゃぶりつきたくなる唇、絹を思わせる白く透き通る肌、均整がとれつつもむっちりと豊満な体、何もかもが自分の好みに直球ストライクな彼女が、今まさに目の前に――。
「スーパーリラクゼーション発射~」
 ぷしゅ、と気の抜けた音で我に返ると、セクシーなポーズで誘惑しているラブ所長は霧散し、代わりにムッとした表情のリンが香水瓶を構えて立っていた。
「鼻の下伸ばしすぎだし。そーゆー顔はうちを見ながらにしてほしーし」
 どうやら所長お得意のフェロモンが仕込まれていたらしい。気を取り直して手元を見ると、箱の中には豹柄のブーメランパンツが収められていた。ラメが眩しく光るそれを取り出してみると布の面積は異様に小さく、股間はかろうじて隠れるだろうが尻は丸出しだ。ココは穿いてくれないだろうからあとでサニーにでも押し付ければいいか。
「ね、トリコ。手出してちょーだい」
 背中の大きく開いたドレスがちょっと寒そうなリンは、ハンドバッグの中から焦げ茶色の箱を取り出してトリコの手の上に載せた。せがまれるままに水色のリボンをほどくと、現れたのは自動巻きの腕時計だった。文字盤に刻印されたブランド名は業界トップクラスの技術を誇る老舗メーカーで、トリコ自身も購入となると二の足を踏むような金額の品物ばかりのはずである。
「うちの貯金全部つぎ込んだの! ……っていうのは冗談で、時計本体はハゲとか局長達全員からでね、うちからのプレゼントは文字盤の十二時の所に填まってるエメラルドだけだったりして……えへへ」
「ビックリさせんなよ! まあでもありがとな。大事にするぜ」
 髪飾りを揺らさない程度に頭を撫でてやれば、少し恥ずかしそうに笑う妹分は顔を真っ赤にしてもじもじと俯いた。明るく男勝りなリンがこうもしおらしいと腹の具合でも悪いのかと少し不安になる。
「リーン! お前また餌やり忘れただろう! シルバーバックが腹を空かせて暴れとるぞ!」
「はぁ? ちゃんと食わせたし! 超いいとこだったのにマジざけんなハゲ!」
 スカートの裾を翻しマンサムに向かってガニ股で走っていく後ろ姿に安心しつつ、あれじゃ嫁の貰い手はなかなか付かないだろうと余計な感想が頭をよぎった。
 
 一通りの挨拶も済ませたので、椅子を一脚拝借して腰掛ける。ゼブラががっついているセレ豚の酢豚にもかなりそそられるが、トリコの鼻は酢豚よりも舌の上で転がしているバーボンよりも魅力的な甘い香りを捉えていた。だんだんと強くなる香りに胸は高鳴り、センチュリースープを飲んだわけでもないのに口元が緩んで仕方がない。
 やがて、少し照明を落とした中で一カ所のドアにスポットライトが当たる。定番のバースデイソングとともに入場してきたのはハイアンパンサーのリッキーですら首を伸ばして見上げるほど巨大なバースデイケーキだ。
「うっひょー! 来た来たあっ!!」
 実に七段積みのケーキは各段の高さがトリコの背丈以上あり、下からベイクドチーズケーキ、ガトーショコラ、バウムクーヘン、モンブラン、ミルフィーユ、ショートケーキ、シフォンケーキという豪華な構成である。さらに周りにはクロカンブッシュとマカロンのタワーが並べられていた。クリームやチョコレートの装飾も素晴らしいが、何と言っても目を引くのは宝石と見紛うばかりに瑞々しいフルーツの数々だ。男女問わずうっとりと溜息を漏らす立派なケーキに駆け寄ろうとした首根っこを茂松にガッチリ掴まれた。
「食う前にひと仕事やることがあるぞ」
 軽々と放り投げられた先には登場の時に乗っていた白馬型のゴンドラがあった。片手で掴まって乗り込み体勢を立て直すと、ケーキの甘美な香りが鼻腔から血流に乗って全身を巡り脳まで突き抜ける。そのままダイブしたい衝動を全力で押し留め、小型クレーン車に乗ったウェイターが天辺に飾られた数字型のキャンドルに点火し終えて降りていくのをじっと見守った。
 薄暗いフロアの中で煌々と揺らめくキャンドルの炎が暖かく柔らかい優しさでトリコの顔を照らす。せり出したゴンドラから身を乗り出して息を吹きかければ、明かりの消えたフロアに拍手が湧き起こった。
「ハッピーバースデイ!」
 こんな歳にもなって照れ臭いことこの上ないのだが悪い気はしなかった。
 主役としての務めも果たし、鼻息も荒くいざケーキに飛び掛からんとした時、ウーメンが『おしぼりは足元のバスケットの中! 一発決めてちょうだいな!』というカンペをぶんぶん振っているのが見えた。ゴンドラの直線状は既に人払いが済み、出席者達がワクワクした表情を向けて待ち構えている。そこまでやらなければ食べられないのかと肩を落としつつも右手の袖を一応捲り、しっかりとおしぼりで拭いて構えた。力加減を誤ると大変なことになるので慎重に呼吸を整え、手刀を真っ直ぐとケーキに向けたまま垂直に飛び降りる。
「ナイーーーーーーフ!!」
 着地の瞬間はテーブルまで真っ二つにしないように手を上げて、結果的にそれが決めポーズのようになってしまった。キャンドルを吹き消した時よりも大きな拍手にクラッカーまで鳴る中、この演出は必要だったのだろうかと首を捻りながらもクロカンブッシュタワーを一本もぎ取ってかじり付く。溢れ出すカスタードクリームはあっさりと上品な甘さで、若干の物足りなさを感じる分どんどん食べ進められた。
 縦半分に切ったケーキは右半分が出席者用、左半分がトリコ用ということだった。ウェイターがせっせと小皿に取り分ける反対側で、脚立の上に跨って切り崩したケーキを手掴みで頬張る。美味い。
「おま、フォーク使えよ! んなお下劣な食い方せっかくのつくしいケーキに対する冒涜だし!」
 下からサニーの怒鳴り声がした。横にはココもいる。ホイップクリームと果汁でベトベトになった手をざっと舐めて下に降りると、ココはあからさまに眉を顰めた。
「品がないのを通り越して、現代人としての文化的教育を受けたのかも疑いたくなるな」
「それはさすがにひでえよ!」
「口の周りをクリームまみれにした大男が文句を言える立場か。ほら、ちゃんと拭け」
 渡されたおしぼりで顔と手、ついでに服に飛び散ったスポンジのカスも拭う。リンの分のケーキをしっかり確保したサニーは、最下段のベイクドチーズケーキをしげしげと眺めた。
「っかし、変わったシェフだよなぁ。他人のバースデイケーキに堂々と自分の名前入れるヤツ初めて見たし」
「ん? これ小松が作ったんじゃねえの?」
「食材提供はフォン・ド・ボーノ氏、プロデュースはタッチーノ・カワゴエシェフらしいよ」
 言われてみればケーキの側面にはアルファベットで『タッチーノ・ファンタジー☆』と焼き印が押されている。焼けた部分は焦げ目が香ばしくて一味違った美味さだった。
「サニーさん! 準備できました!」
 小松の声がゼブラのいるテーブルから聞こえた。サニーに促されてゼブラの右隣の席に着くと、ココはトリコの隣、サニーは残りの席に座った。小松とウェイターがトリコ達四人の前にそれぞれ円形のエントレーディッシュを並べていく。
「お誕生日おめでとうございますトリコさん。メインのバースデイケーキはタッチーノシェフにお任せしたんですけど、僕もサニーさん監修のケーキを作りました。ぜひ召し上がってください」
「小松君、トリコは分かるんだがボクやゼブラも戴いていいのかい?」
 ココの問いかけに小松は笑いながら頷いた。
「せっかくですから四天王の皆さんに食べていただきたくて。あ、でも、トリコさんのケーキはもちろんスペシャル仕様ですよ」
 そう言うと、小松とウェイターはエントレーディッシュの蓋を開けた。


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2012/06/24 02:47 | トリコ。

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