忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/19 12:16 |
【生誕祭!】楽-1
トリコ誕生日テキスト、続きです。
やっと楽パートまで来ました!あともう一息!でもまだ書き終わってないよ!


あ、そろそろグルメサバイバル2の予約しなくちゃ。1はまだサニーが仲間になったばかりです。










 自分の腹が鳴る音で目が覚めた。これ以上ないくらいの空腹感がトリコの研ぎ澄まされた嗅覚に働きかけ、薬品臭に隠れた美味そうな匂いを探り当てる。
 もうじっとしてなどいられない。医者の制止やら鉄平のいびつな象形文字なんかには目もくれず、さっさと飛び出して一目散に匂いの元へと走った。長い廊下をひた走り、驚いて固まる職員達とすれ違い、『厨房』のプレートを掲げるステンレスのドアを押し開ければ、この世のすべての幸せを濃縮したような素晴らしい匂いが押し寄せてくる。グルメ細胞が歓喜し唾液の分泌が止まらない。早く食べたい。胃袋を満たしたい。トリコが本能の赴くまま厨房の中へ入ろうとした瞬間、メルク包丁を握りしめた小松が絶叫した。
「服を着てくださいトリコさぁんっ!!」
 そこからちょっと記憶がない。
 
 次に目を覚ますと、どういうわけかきちんとタキシードを着ていた。蝶ネクタイとカマーバンドは光沢のあるブラウン地に金糸で織り込まれたペイズリー模様。袖のカフスはタイガーズアイ。どれも確かに自分の持ち物だが、自分で着た記憶がない。意識を失う直前は全裸だったはずだ。不思議に思っていると、視界の端に揺れる派手な色の髪に気付いた。
「お前が着せてくれたのか? ありがとな!」
「りがとな、じゃねーだろ! リンの部屋と厨房が逆方向でマジよかったし! っのヘンタイ! 露出狂! 野蛮原人!」
 何だか知らないがサニーはえらく怒っている。別に減るもんじゃねえじゃんとへらへら笑ったトリコの脛を、サニーは思いっきり蹴飛ばした。
「あらあら乱暴はダメよぉ。せっかく目を覚ましたのにまた髪ノッキングされたんじゃ、いつまで経ってもパーリーが始められないじゃなぁい」
 よく見るとサニーの陰にウーメンが立っていた。口をへの字に曲げて立ち去るサニーを横目に、ウーメンはぐいぐいとトリコの背中を押す。
「ささ、打ち合わせ通りにスタンバってちょうだいな。お客様があなたのイャンパクトのある登場をお待ちかねよ」
「本当にアレに乗るのかよ……」
「当ッたり前でしょッ!」
 蓄光テープが点々と貼られた暗い通路を歩き、指定された場所に両脚を揃えて立つ。装置が動き出した瞬間ガクンと大きく上下に揺れて目眩を感じたが、すぐに安定して小刻みな振動に落ち着いた。
 目の前に近付いてきた扉の隙間から明かりが洩れている。その向こうからは胃袋を刺激してやまない料理の匂いと軽やかな音楽、楽しそうな話し声。各国の鉄道の車窓から撮影した風景を放映する番組でお馴染みのナレーターの声がスピーカーから響いた。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。本日の主役、四天王トリコの登場です」
 扉がフロアへと向かって観音開きに開く。両サイドから噴き出したピンク色のスモークの中、足元から一斉に飛び立つ無数の白い鳩。装置がぐんぐん前へとせり出して、そこらじゅうに付いた電飾がビカビカ光り出す。スモークが晴れた先ではグラスを手に持った紳士淑女その他が目を丸くしてこちらを見上げていた。
 誰だって唖然とするしかないだろう。天井近くの壁が開いたと思ったら、白い天馬型のゴンドラに乗ったトリコが現れたのだ。しかもここはイベントホールではなく第一ビオトープ所長室である。驚きというよりも動揺を隠せない出席者達を見下ろしながら、トリコはゴンドラの縁に足を掛けた。
「よっ!」
 タキシードの裾をはためかせての前方屈身四回宙返り。わずかも呼吸を乱すことなくスタンドマイクの前に正確に着地する。横から無駄のない所作で現れたウェイターからグラスを受け取り、マイクのスイッチを入れた。
「どうも、今日はオレの誕生日パーティーにお集まりいただきありがとうございます。えー、短い時間ではありますが、……まあ堅苦しいことは抜きにして、たらふく飲んで食って楽しんで行ってくれ!」
 乾杯の掛け声をきっかけに出席者達は賑やかさを取り戻し、台詞の後半が若干適当だったことを聞き咎めるような野暮な者はいなかった。何はともあれ、パーティーの始まりである。
 今夜のパーティーはだだっ広い所長室の壁に沿ってぐるりとテーブルが並べられ、トリコがこの一年で捕獲した食材を中心に多種多様な料理が提供されるビュッフェ形式だ。開始早々からトリコが回ってしまうと出席者の分がなくなってしまうとのことで、まずは一通り運ばれてきた料理を食べて腹ごしらえするようにとウーメンから釘を刺されていた。それで大人しくテーブルについているのだが、正面と両隣に座っている顔ぶれが凄まじい。
「宙返りで降りるとは、なかなか洒落たアレンジを加えたもんだのう。やっぱりゴンドラで登場させて正解じゃったわい」
「イチちゃんはやることがいちいち派手だねぇ。若い頃はもっとスマートにワイルドだったのに。ねぇ次郎ちゃん?」
「あのぅ旦那、あっしにもその酒を一杯いただけないですかねぇ」
 一龍、節乃、次郎と一緒にテーブルを囲む機会などこの先二度とないだろう。できれば色々な話を聞きたいものだが、いかんせん腹が減りすぎている。運ばれてくる料理を次々に胃袋に収め、『カーネルモッコイ・フライドチキン・カンパニー』という紙帯の付いた一羽丸ごとフライドニワトラを綺麗に平らげる頃には、思い出話なのか痴話喧嘩なのかよく分からない会話は終わっていた。まだパーティーが始まって三十分も経っていないのに次郎と節乃は酔っぱらって夢の中。一龍はフロアの中央辺りで各国のお偉方を相手に談笑している。エナジーヘネスィーを二本まとめて飲み干すと、幸せそうに眠る二人をウェイターに任せてトリコはフロアの中を回ることにした。
 最初の料理に辿り着く前に、あっという間に顔も名前も知らない出席者に囲まれてたくさんの祝いの言葉がシャワーのように降り注ぐ。紋切り型の笑顔を浮かべた顔はどれも同じに見えるが、この中にはコロシアムで札束を振りかざしていた連中も多くいるらしいことは何となく察しがついた。
 サニーは人の感情の機微に敏感だ。ココの視覚やゼブラの聴覚も、本人が望むと望まざるとにかかわらず相手の感情を察知してしまうだろう。そう考えると、大雑把な性格かつ嗅覚に特化した自分は四人の中である意味一番恵まれているのかも知れない。腹の探り合いなど面倒なだけだし、細かいことをいちいち気にしていても何の腹の足しにもならないからだ。
「トリコ!」
「お、マッチじゃねえか! 久しぶりだな!」
 美辞麗句の荒波に揉まれながらやっとの思いで輪を抜けると、声を掛けてきたのはグルメヤクザのマッチだった。アイスヘルの時と同様ラム、シン、ルイの三人を従えて、手には大きな紙袋を持っている。
「なかなか面白かったぜ、早食い競争。よくもまぁあれだけの量を短時間で食えるもんだ」
「お前も来年出るか?」
「さすがに御免だな。そら、誕生日プレゼントだ。受け取ってくれ」
 マッチから渡された紙袋の中には、紫の風呂敷で包まれた一升瓶と手作りの冊子が入っていた。
「そっちはリュウさん御用達の造り酒屋から仕入れた大吟醸。味は折り紙付きだぜ。もう一つはネルグのガキどもが描いたお前の似顔絵だ。センチュリースープの礼だとよ」
「おいおい、オレの顔ほとんど豆粒じゃねえか! どっちかってえと小松の似顔絵集だぞ!」
「まぁいいじゃねぇか。コンビなんだしよ」
 何だか釈然としないが、ありがたく受け取った。同じ写真を見て描いたとは思えないほど個性溢れる似顔絵集を捲っていると、マッチの後ろからオレンジのターバンと黄緑のリーゼントが現れた。
「ダメじゃないですかオジさん、勝手にいなくなっちゃ」
『そうだそうだ』
 反論しようとしたマッチを押しのけてトリコの前に進み出ると、滝丸はヨモギ色の巾着を差し出した。
「トリコさん、お誕生日おめでとうございます。プレゼントには何がいいかとグルメ騎士のみんなで相談したんですが、トリコさんはこれからも危険地帯やグルメ界に行かれたりするでしょうから、グルメ教伝統のお守りにしました」
「そいつはありがてえ! アイにもよろしく言っといてくれ!」
 巾着を開けると、中には古びた人型の木札がぎっしりと詰まっていた。木札にはそれぞれ細かな字がびっしりと書いてあり、釘を打ちつけたと思しき穴まで開いている。作り方はあえて聞かないことにして、トリコはそっと巾着の紐を締めた。
「ん? 鉄平も何かくれんのか?」
 無言のままぬっと突き出された手には、悪い意味で達筆な字で『無料腕生やし券(3回までだヨ!)』と書かれたメモの切れ端が握られていた。
「そんなに何度も腕もげたりしねえよ!」
「じゃあ首生やし券」
「首もげた時点で死んでるだろ!」
 よく見れば鉄平は微妙に体に合わないダブルのスーツを着ている。パーティーがあることを知らなかったので準備がなく、急遽マッチの予備を借りたらしい。リーゼントにダブルのスーツの組み合わせは、彼の職業を知らない人間から見れば確実にヤクザの幹部だ。
「組長! 滝丸さんがまたどこかに行っちまいました!」
「何だとぉ!? お前ら、今度見つけたら滝丸少年に迷子紐付けとけ!」
 マッチと三人の部下達が慌てて探しに行った後ろ姿を見送りながら、自分の後ろに隠れて素知らぬ顔でアイスティーを飲んでいる少年を振り返る。
「オジさん達って、からかうと面白いんですよね」
『ヤクザの親分を手玉に取る君の将来が遅ろしいよ』
 字間違ってるぞ鉄平。




拍手[8回]

PR

2012/06/21 23:03 | トリコ。

<<【生誕祭!】楽-2 | HOME | 【生誕祭!】哀-3>>
忍者ブログ[PR]