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2024/05/19 08:26 |
【生誕祭!】怒-2
トリコ誕生日テキスト、続きです。
怒のパートはここまでです。

まだ最後まで書けてません。
せめて5月中には終わらせたい……_(:3」∠)_




 






 小松の心拍数は急速に上がり、サニーも生唾を飲み込んだ。ただ一人ココだけに何も変化が起こらないのは、電磁波でこの先起こることを予見したのか、それとも別の理由があるのか。ゼブラは目をコロシアムに向けたまま、ココの些細な変化も聞き漏らすまいと耳をそばだてる。
 三つのゲートが同時に開く。何かの影が動いたが、スモークが多すぎて分からない。名前を確かめようと電光掲示板を見上げたゼブラは我が目を疑った。トリコの名前の下に現れたのは『ゼブラ』『ココ』『サニー』という文字だった。
 スモークが晴れて浮かび上がった姿は長い髪の男、赤い髪の大男、緑のターバンの男。背丈も肉付きも自分達にそっくりだ。動揺を見せたサニーの隣で、ココが口を開いた。
「とても精巧にできたGTロボだ。そのことにはトリコも臭いで気付いている。ただし、観客には本物のボクらに見えるだろうね」
 どこか他人事のような平坦な声には何の感情も表れていない。
 手に汗と札束を握り締めた観衆は、狂喜しながら賭けを始めた。口々に自分や仲間達の名前が叫ばれ、オッズは刻々と変化する。僅差で競っているのはゼブラとサニーで、次いでココ、最後がトリコだ。
 開始のゴングとともに三体のGTロボが襲いかかる。ココ型の蹴りを避けたトリコは軸足をゼブラ型に払われ、よろめきざまにサニー型の突きを右脇腹にもろに受けた。さらに、倒れる直前にサニー型の触覚に絡め取られ、背中から地面へと叩きつけられた。
 試合は一方的な展開になった。トリコの攻撃はことごとく読まれては阻止され、逆に不意を突かれてダメージを食らうことの繰り返しだ。劣勢のトリコはすぐにTシャツもズボンもボロボロになり、滲んだ血が赤い染みを作っていた。
 ゼブラ型とサニー型GTロボの操縦者は相当強い。だが、強い者ほど体捌きや得意な攻撃には特徴があるものだ。それぞれの攻撃の端に見え隠れする動きの癖で大体の見当はついた。
「サニーを操縦してんのはマンサムだな。オレの方は茂松か」
「あのえげつねー踵落とし入れんのは確かに茂松のオッサンだ。でもココが分かんね」
 えげつないと評されたゼブラ型の踵落としはトリコの鳩尾に決まった。大きく血を吐いたトリコは髪を掴まれコロシアム中央に投げ出された。
 最初の蹴り以降、ココ型は防御ばかりで自発的な攻撃をしていない。今もサニー型の脇に立って構えているだけだ。オッズは最下位になり、「引っ込め」「役立たず」とヤジが飛ぶ。
 息も絶え絶えのトリコに向かってゼブラ型とサニー型が一気に駆けだした。そろそろとどめを刺すつもりなのだろう。二体が大きく腕を振りかぶり、右腕を支えに上半身を起こしたトリコが左腕一本で受けようとした時、予想外の出来事が起こった。
 トリコの前にココ型が飛び込み、二体の攻撃を受け止めたのだ。
 ココ型は動けないトリコを庇いつつじりじりと前進すると、サニー型の腕を絡め取って背負い投げた。掴み掛かってきたゼブラ型には掌打を食らわせる。あの動きは、まさか。
「あれは……ボクだ」
 ぽつりと漏れたココの言葉に小松の心音が乱れた。
「あっ、ありえないですよ! だってココさんは僕達と一緒にいるじゃないですか!」
「修業中のモーションデータを元にプログラムしたんだろう。細部に至るまで吐き気がするほど似ている」
「そんな……ココさんから見てもそっくりなんじゃ、トリコさんは……」
「ボクが操縦していると思うだろうね」
 その読みは当たっていた。立ち上がったトリコはココ型を攻撃対象から外し、サニー型に攻撃を集中させた。ココ型もトリコを援護しながらゼブラ型と組み合っている。
 突然の番狂わせに慌てたのは観衆だ。混乱はそのままオッズの乱高下に反映され、電光掲示板の数字がめまぐるしく変化する。
 十五連釘パンチで何とかサニー型を行動不能にしたトリコは、ゼブラ型に手こずっているココ型の元へと駆けつける。トリコはココ型からゼブラ型を引き離そうと後頭部を何度も殴るが、生身の人間ならともかくロボットに効くはずもなく、肘鉄を顔面に受けて後ろに倒れた。
 ココ型がトリコを助けようと伸ばした腕はゼブラ型によって捻り上げられ、踏みつけられた拍子に足首がボキリと折れた。衝撃でココ型はその場にうずくまる。すぐに立ち上がるかと思ったのだが、ココ型はなかなか起き上がらなかった。まるで痛みに耐えるように折れた足を押さえて震えている。
 異変に気付いたトリコは鼻血を拭うこともせずにレッグナイフを繰り出してゼブラ型を弾き飛ばし、ココ型を抱き起こした。ゼブラ型は太腿に大きな裂傷を負ったが、噴き出す赤いオイルを気に掛ける様子もなく再びトリコ達に向かって走り出す。
「ココだけは圧覚超過を解除してるって演出か。悪趣味極まりねーな」
 サニーは不快感もあらわに吐き捨てた。
 すでに満身創痍のトリコは後ろにココ型を庇いながらゼブラ型の攻撃を受け続け、手首は肉が削げて骨が覗いていた。それでも攻撃に転じた一瞬の隙を突かれることを恐れてか、トリコはひたすら防御に徹している。一撃ごとに傷は増え、白かった衣服はトリコの血を吸って真っ赤に染め上げられた。
 観衆は「殺せ」「殺せ」と囃し立てた。無責任な傍観者どもは他人の流す血に興奮し、呻き声に歓喜し、命が尽きる瞬間を自分の目に焼き付けようと待ち構える。ココの腕に縋り付いた小松は全身の力を振り絞ってトリコの名前を叫び続けているが、小松自身の耳にもその声が届かないほどの轟音が会場を満たしていた。汚い声と荒い息遣いが津波のように押し寄せて頭が割れそうだ。
 ダブルスレッジハンマーがトリコの脳天に直撃し、ついにトリコは倒れた。その首を掴み、ゼブラ型はだらりと力なく揺れる血みどろの体を掲げて観衆に見せつける。紙吹雪のように大量の紙幣が舞い上がる。予想を的中させた連中の歓喜の咆哮の中で、サニーの舌打ちと小松の絶叫が耳に突き刺さった。
「終わったな」
 ココは何の反応も示さない。わずかな瞬きの音と規則正しい鼓動、静かな呼吸音。青ざめた唇を真一文字に結び、背筋を伸ばして平然と座っている。ゼブラは小松をサニーに放ると、膝の上で組まれたココの手を掴んだ。白い手は死体のように冷たかった。
 この野郎。やりやがったな。
 ココの手を力任せに引っ張り、上半身を自分へと向けさせる。そしてココの額にヘッドバットを食らわせた。衝撃でココの体がぐらりと揺れる。
「ちょっ、何するんですか!」
「黙ってろ」
 もう一度引き寄せた手を今度は両手で包んで自分の額へと付ける。ちょうど、控室でココがトリコにそうしたように。
「おら、言うことあんだろうが」
 黙りこくっていたココがゆっくりと唇を開く。
「……食運を、祈る」
 掠れた吐息に載った声はか細く震えていた。
 ココは頑固で屁理屈屋だから、ただ殴ったくらいでは響かないことは身に染みてよく分かっていた。けれど、一箇所亀裂を作りさえすれば、息を吸って吐くごとに虚飾の鱗が一枚ずつ確実に剥がれ落ちていくことも知っている。
「オレを誰だと思ってんだ。チョーシ乗ってんじゃねえ」
 ゼブラは鼻で笑うと、仮面と衣装を脱ぎ捨てて中央のドームに向かって脇目も振らずに駆け下りた。観衆のざわめきをよそに強化アクリルをボイスミサイルでぶち破り、自分と同じ姿をしたGTロボにダイビングニーアタックをお見舞いする。吹っ飛ぶGTロボの手がトリコから離れた。トマトジュースをぶちまけたボロ雑巾にしか見えないトリコを拾い上げると、ゼブラは近くの開いているゲートへと投げ込んだ。数人の医療班と思しき白衣の男達が動かないトリコを奥へと引きずっていく。
 ココ型のGTロボは腕を使い、トリコを放り込んだゲートに向かって懸命に這いずっていた。痛みに体を震わせ、時折止まっては肩を揺らして息をする仕種をする。その動きはまぎれもなくココの動きだった。
 ゼブラはココ型に近寄ると、爪先で引っ掛けて仰向けにした。ターバンの巻かれた頭部にはちゃんと黒い髪も植毛されているが、顔の部分は凹凸があるものの目も口もない肌色ののっぺらぼうだ。
「手抜きじゃねえか。気色わりい」
 会場から三人の足音が遠ざかるのを聞きながら、何のためらいもなく足を振り下ろす。ぐしゃりと踏み潰された顔は裂けたラバーから細かい金属部品が飛び出し、ショートした回路から石油臭い煙が上がった。
 ゼブラ型のGTロボがむっくりと起き上がる。壁面のゲートは次々と開き、スケイルコングやエスカルアゴ、他にも様々な猛獣が現れた。頭上の電光掲示板の表示が変化し、観衆達は新たな生贄を前に目の色を変えた。
 ハンバーガーの早食いからココ型のGTロボに至るまで、今日はどれだけの怒りを蓄積しただろうか。煮え滾る負のエネルギーは捌け口を求めて全身を駆け巡り、引鉄の引かれる瞬間を今か今かと待ち構えている。血沸き肉躍るこの感覚の前には、下衆な観衆の声すら女神の歌声に聞こえてくるから不思議だ。
 ゼブラは周囲をぐるりと取り囲んだ猛獣達の前で、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「さあ、喧嘩しようや」



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2012/05/28 21:56 | トリコ。

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