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2024/05/19 08:53 |
【生誕祭!】怒-1
トリコ誕生日テキスト、続きです。
ちょっとここからノリが変わります。


今朝はトリココダンスに悶えまくりました。あれは確実にガッチガチのゲイカップルです。




 







 三十分以上トイレに引きこもって唸り声を上げていた小松は、やっと個室から出てきた時にはすっかり腹が平らになっていた。ふらふらと廊下のソファーに座り込み、ココから受け取ったペットボトルを握り締めて深々と溜息を吐いた。
「いつまでも辛気臭え顔すんな」
「だって……」
「だってじゃねえ。顔上げろ。水を飲め」
 結局、ハンバーガーの早食い競争はトリコの勝利で幕を下ろした。ゾンゲとかいう男がこっそり一つだけ懐に隠して持ち帰ろうとしていたのだ。コテンパンにぶちのめしてやりたかったが、屋台で無銭飲食したとかで会場からつまみ出されてしまった。怒りをぶつける先を失ったどころか、会場の窓ガラスを吹き飛ばしたことをウーメン、武流、グラス、ワイン、レイにこってり叱られ、ゼブラの気分は最悪だった。
「食べ方にはまったく品がなかったけれど、再生屋の彼という犠牲を払ってまで勝利を掴もうとした君の執念は尊敬に値するよ」
 励ましたいのかけなしたいのか分からないココの言葉に、小松はふにゃふにゃと苦笑いしながら水に口を付ける。
 この男のどこにそんなエネルギーがあったのかと思うほど終盤の小松の追い上げは凄まじかった。調味料の力を借りたにしても、勝ちたいという根本的な欲求がなければ限界点を突破することはできなかったはずだ。
 小松をそこまで駆り立てたもの。それは賞品でも名誉欲でもなく、どうやらココの存在らしい。
「そうだココさん、今夜のパーティーにはネオトマトで作ったケーキを出すんです。砂糖を一切加えていないのにビックリするくらい甘いんですよ」
「へえ、それは楽しみだな」
 青白い顔で頬だけを赤くして照れている。ココと話せるのがそんなに嬉しいのだろうか。ゴムまりが跳ねるようにリズミカルな鼓動が小さな体から溢れ出して、馬鹿正直な好意がダダ漏れだ。
 その一方で、ココの感情は非常に読み取りにくい。ココはいつだって本音をひた隠しにし、平気な顔で嘘を吐く。顔に笑顔を貼り付け、胸の内に怒りを押し留め、さらに頭では別のことを考えていたりするのだから始末に負えない。ゼブラはココが苦手だった。
 時計が一時四十分を指していることに気付き、小松はよろよろと立ち上がった。厨房へと戻る前に、知り合いに預けたままの土産物を引き取りに行かないといけないらしい。そこへ再生屋を救護室に連れて行ったサニーが帰ってきた。
「滝丸に預けてた荷物はヨハネスに運ばせといた。オヤジの許可取ってきたからもうちょい付き合え」
 きょとんとしている小松の目の前に、サニーはポケットから取り出したカードを差し出した。真っ黒で光沢のあるカードの中央には金文字で数字が刻印されている。
「パンフには載ってない、VIP中のVIPだけが入れる秘密のイベントへの招待券。ど? 興味ね?」
「えええええ! ぼ、僕なんかが行ってもいいんですか?」
「松はトリコのパートナーだかんな。厨房に戻るのはコレが終わった後で問題ねーし」
「ほあああ~ありがとうございますぅ! テンションギガギガですよぉ~!」
 さっきまで死にそうな顔でしょげていたくせに、目をキラキラと輝かせて小躍りを始めた。この辺の切り換えの早さはトリコに似ている。
 サニーはゼブラにカードを渡し、ココにも差し出した。ココはじっとカードを見つめたまま手を出そうとしない。
「ココさん?」
「あ、ああ、ごめん。ちょっとボーっとしてた」
 小松が覗き込むと、ココは作り笑いを浮かべてカードを受け取った。
 先導するサニーと浮足立った小松が廊下の角を曲がってもココはしばらくその場に突っ立ったままだった。
「視たのか」
「視えなかった」
「逃げるのか」
「逃げないよ」
「ならさっさと歩け」
 ゆっくりと、ココは一歩踏み出した。嵐に吹かれる森のように耳障りな心音を鳴らしながら。
 
 消毒液のシャワーを浴びて研究所に入る。従業員通路を抜け、倉庫を横切り、サニーは小松を連れて目的地へと迷いなく進む。前を歩くココの背中を見張りながら、ゼブラは二人の会話に耳をすませた。
 ――ねぇサニーさん、秘密のイベントって一体どんなものなんですか?
 ――秘密っつっても大したもんじゃねー。一言で言えば技量測定だ。この一年でどんな技を身に付けたかとか、どのくらいパワーアップしたのかとか、そゆのをチェインアニマルとの実戦で調べるのさ。あいつだけじゃなくてオレらも誕生日には毎年やらされてる。観客を入れるのはトリコの時だけだけどな。
 ――何でトリコさんだけなんですか?
 ――オレやココのは見た目的に地味だから見てもつまんねーし、ゼブラは昔観客のヤジにぶち切れて半殺しにしてから非公開。トリコだったらそれなりに派手で客も安心して見られるから、金儲けにはもってこいなんじゃね?
 ――あ、やっぱり賭けとかするんですね……。
 二人の足音が階段下で止まった。ココとゼブラもすぐに追いつく。『控室』というプレートがついた古びた鉄の扉をサニーがノックすると、覗き窓からこちらを確認したトリコが鍵を開けて招き入れた。白いTシャツとズボンに着替えたトリコはウォーミングアップの最中だったようだ。
「よお! ウンコ全部出してすっきりしたか小松!」
「いきなり下ネタですか!」
「サイテーだぞお前!」
 ゲラゲラと大声で笑ったトリコは、サニーから渡された差し入れのドリンクを一気に飲み干した。小松の頭をがしがし撫でたりサニーと冗談を言い合ったり、いつも通りにリラックスしている。適度な緊張感と興奮が血液の循環を促進し、千個のハンバーガーを食べてエネルギーの蓄えも十分だ。
「チョーシのってヘマすんじゃねえぞ」
「するわけねえだろ。このあと小松の料理が待ってるってのに。お前こそ大人しくしてろよ」
 トリコは自信満々にそう言うと、ドアの前から動こうとしないココを手招きした。ココが渋々近付くと、その腕を掴んで引き寄せる。
「ココ、あれやろうぜ」
「嫌だよ。子供じゃあるまいし」
「ケチくさいこと言うなって。オレ達今でも必ずやってんだぜ」
「本当に?」
 ゼブラはサニーと同時に頷いた。ココはわざとらしいまでに大きな溜息を吐くと、トリコの真正面に立った。トリコが両手を顔の前で祈りの形に組み、ココが両手で包む。二人はその手に額を付けて目を閉じた。
「行ってこい。食運を祈ってる」
「おう!」
 子供の頃、コロシアムに出る前には他の三人の内の誰かとこの儀式をするのが決まりごとだった。所詮はただの気休めに過ぎないのだが、ずっと続けているうちに何となくこれをやらないと落ち着かなくなってしまっていた。今では食事の前に「いただきます」と言うのと同じようなものだ。
「……じゃ、そろそろ行くぞ」
「また後でな」
 ひらひらと手を振るトリコを残し、ゼブラ達は控室を後にした。
 
 何度見ても、この光景は胸糞悪い。
 観覧席を埋め尽くすのは頭からフード付きのマントを被った黒づくめの人間達。顔の上半分を覆う白い仮面を付け、性別とおおよその年齢以外はお互いの身分や正体は分からない。表社会の政治家や富豪に実業家、裏社会の犯罪者やマフィアのボス、金があり余った連中が集まっていることは確かだ。美食會が混ざっているという噂もある。
 見下ろしたコロシアムは今は無人だ。試合が始まるまではどんな猛獣が出場するかも知らされない。コロシアムを覆うドームの上にある電光掲示板には、トリコの名前だけがぽつねんと表示されていた。
 他の観衆と同じく黒いフードを被って仮面を付けた四人は、カードに刻まれた数字の席に着いた。着替えた時には「仮面舞踏会みたいですね」とはしゃいでいた小松も、ゼブラとココの間に座ってからはおどおどと周りを見回している。さすがにまともなイベントではないことを察したらしい。ゼブラは小松にだけ聞こえるように焦点を合わせて声を発した。
「小僧。オレとサニーがいいと言うまで、絶対にココから離れるな」
「え?」
「いいか、絶対にだ。約束を破ったら承知しねえぞ」
 小松が何か言おうとした声は興奮した観衆の叫び声に遮られた。トリコが入場したのだ。演出のスモークが焚かれ、電光掲示板に対戦相手の名前が点灯した。
 デビルキーパー。ヘビークリフ。いずれも捕獲レベルは三十から四十程度だ。トリコの実力ならば大した相手ではない。案の定、一番人気はトリコだった。
 ゲートが二ヵ所開くのと同時に二匹が一斉に躍り掛かる。トリコは難なくかわすと、呼吸を乱すことなくヘビークリフの懐へと飛び込み、三連釘パンチを放つ。まともに食らったヘビークリフの体はデビルキーパーにぶつかり、二体まとめて壁面へと叩きつけられた。完全に気絶してピクリとも動かない。
「すごいやトリコさん! 一瞬で勝っちゃいましたよ!」
 小松は無理に明るく叫んだが、ココもサニーも無言だった。
 猛獣は次から次へと送り込まれる。まともに名前が表示されていたのは最初の五体までで、それ以降電光掲示板は「モンスター」と一括りに表示され、何と何を掛け合わせたのかすら分からない異形の生物ばかりだった。甲羅一面にウサギの首を生やしたカメ、全身が毛に覆われたヘビ、右の翼だけが六枚ある鳥、他にもたくさんの実験動物のなれの果てが放り込まれてはトリコにやられていく。中にはどう見ても捕獲レベルが一にも満たないような不完全な生物もいたが、相手の生き物が醜くグロテスクであればあるほど観衆は喜び、小松は周囲に押し潰されるように縮こまった。
 バトルフレグランスを嗅がされて錯乱状態の生物が一体、ゲートが開いた瞬間トリコとは関係ない方向に飛び掛かり、その勢いで壁に頭を打ち付けて動かなくなった。自滅した生物に下卑た笑いが湧き起こる中、トリコの苦しそうな歯軋りが耳に届いた。
 トリコは無駄にエネルギーを消耗しないように最小限の動きで相手を戦闘不能にしていく。あの男は食べる目的以外で生き物を殺すことは滅多にしない。そんなトリコに観衆からはブーイングが起こり始めた。
「なぜ殺さない!」
「今だ! そこだ! 息の根を止めろ!」
「手刀や突きはどうしたんだ! パンチばかりじゃないか!」
「こっちは高い金を払って来てやっているんだ! 真面目にやれ!」
 トリコは至って真面目に戦っている。あれのどこがふざけているように見えるのか。文句があるならお前がコロシアムに立てばいい。自分にはそんな力も根性もないくせに、金さえあれば世界を意のままに操れると思っているクズだからこそ、こんなくだらない見世物に群がってくるのだ。頭上からサンダーノイズを降らしてやりたい衝動に駆られたが、それほどの価値もない奴らだと気付いて思い留まった。
 二十体近くを倒したあたりで一旦気絶した猛獣達が片付けられ、コロシアムにはトリコ一人が残される。ざらついたノイズを纏い、無感情な機械音声のアナウンスが場内に流れた。
「皆様、余興はお楽しみいただけましたでしょうか。それではこれよりメインイベントを開始いたします」



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2012/05/27 23:08 | トリコ。

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