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2024/05/19 11:19 |
【生誕祭!】喜-2
トリコ誕生日テキスト、続きです。

アニメでアイスヘル編が終わってずいぶん経ちましたが、今さら鉄平が気になっています。
また本編に登場してほしいものです。



 






「すんごい量だね。土産を『買った』ってより『仕入れた』って方がしっくりくる」
 鉄平が目を丸くするのも無理はない。小松の足元に置かれたリュックサックは限界まで土産物が詰め込まれ、さらにその脇に紙袋が二つ。それ以外にも直接配送したものもある。
「うちは厨房だけでも五十人以上いますからね。他にも親戚の子達に頼まれたものとか、ご近所に配る分とか、何やかんやでこんなになっちゃいました」
 饅頭、クッキー、生写真にキーホルダー。自分でも驚くほどの金額が瞬く間に財布から消えていった。しかしそのほとんどはゼブラにマンションのドアを破壊された時にIGOから渡された慰謝料だったりする。
 イベント会場はグルメコロシアムによく似た室内ドームだが、その広さは半分程度だ。午前中には子供向けにアニマルサーカスや小動物とのふれあい体験が行われていたらしい。クレープ屋台の前で会ったリンは可愛らしい衣装を着てウサギ耳のカチューシャを付けたままだった。
 サニーの確保していた席はステージ正面の中段よりやや手前だった。観客席は満員御礼。隣の席はココのためにどうしても確保しておきたかったのだが、一人でウロウロと席を探す滝丸を見つけてしまっては声を掛けずにいられなかった。
「ご無沙汰しています、小松さん。鉄平さんもお元気そうで何よりです」
 滝丸はマッチ達と一緒に来たのだが、人ごみの中ではぐれてしまったらしい。サニーにも声を掛けようと振り返ると、鉄平の隣にいたはずのサニーは階段を登って外へと向かっていた。すでに照明はフェードアウトし始めたというのにトイレにでも行くのだろうか。
「レディース、エーンド、ジェントルメェーン! ついに本日のメインイベント、『みんなで挑戦! 四天王トリコと大食い対決!』の時間がやってまいりました!」
 真っ暗な空間に差す一筋のスポットライト。照らし出されたステージ上にトリコが姿を現した途端、割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。客席を埋め尽くす老若男女誰もが熱のこもった視線をトリコに投げかけ、犬歯の尖った白い歯を覗かせてニカッと笑えば女性達は熱狂的な悲鳴を上げる。最近はあまりにも近くにいすぎて忘れかけていたが、こうして見るとやはり彼はグルメ時代のカリスマなのだ。
 スピーカーから陽気な音楽が流れ、司会者がルールを説明する高らかな声が響く。挑戦者の募集が始まって真っ先に飛び出したのは見覚えのある三人組だった。
「へっへー! 俺様にかかりゃハンバーガーの百個や二百個なんざちょろいもんよ!」
「さっすがゾンゲ様! 男らしい!」
「でもさっきまでサーロインキノコ食べまくってましたよね」
 残る枠はあと七人。ところがなかなか立候補者は現れない。後ろの席から聞こえてきた会話によれば、昨年の対決は某テレビ局のヤラセで有名な大食いタレントやスポーツ選手ばかりが挑んだのだが、四百個のハンデがあったにもかかわらず大敗したらしい。トリコの容赦のなさに苦笑いしつつもオレンジジュースをすすっていると、視界の隅にマッチ一行の姿を見つけた。
「マッチさーん! ラムさんシンさんルイさーん! 滝丸さんはここですよー!」
 懸命の呼び掛けも音楽にかき消されて届かない。小松は何とかして気付かせようと大きく手を振った。鉄平も無言ながら懸命に腕を振り回す。立ち止まったマッチがきょろきょろと辺りを見回し、やがて視線をこちらに向けた。
「よし! 気付いたぞ小松く……」
「ああーっとお! 現れました四人目と五人目! 彼らはまさか、センチュリースープの小松シェフと再生屋の鉄平ではないでしょうか!!」
「しまったああああああああ!」
 立ち上がって両手を振っていたために、マッチ達だけでなく会場中の注目を集めてしまったのだ。痛いくらいの期待の眼差しが全身に突き刺さっては今さら取り消すこともできず、仕方なく土産を滝丸に預けて鉄平とともにステージへと上がる。振り返ると、さっきまでいた場所にはマッチ達が荷物と滝丸を挟むようにして座っていた。
「さあ、現在挑戦者は五名! 次の挑戦者は……」
 ――あとはオレ一人で十分だ。
 地の底から響いた声に、喧騒がピタリと収まった。静まり返った会場に重たい足音が現れ、ゆっくりとステージへ近付いて来る。その姿に会場中がどよめいた。
「ゼ、ゼ、ゼ……ゼブラだあーーーー! 何と四天王ゼブラが名乗りを上げましたーーっ!!」
 一瞬恐怖に包まれた空気が溢れんばかりの興奮へと変わる。焦ったのはイベントを主催する広報局だ。トリコとゼブラ二人分を賄いきれるほどの数はさすがに準備していなかったようで、局長のナーロイドからの緊急放送により、急遽大食い対決を早食い競争へ変更することが告げられた。
 ステージの上にどんどんハンバーガーが運ばれてくる。互いのノルマは千個。トリコは一人で、小松達は六人でこれを食べるのだ。うず高く積まれた石垣のようなハンバーガーに圧倒されていると、ゼブラに背中を叩かれた。
「ココから伝言だ。あんまり無理すんなってよ」
 彼が指差した方を見ると、通路の端に立ったサニーとココが見えた。ココはサニーの陰からこちらに向かって手を振っている。きっと報道関係者のカメラから隠れているのだろう。
 ココが自分を応援してくれている。小松は全身に力が漲って来るのを感じた。ココの名前が出たと同時に背後で膨れ上がった鬼のようなプレッシャーだってちっとも怖くはない。訂正。ちょっとしか怖くない。
「ココの前で格好悪いとこなんて見せらんねえしな。手加減は一切しねえから覚悟しとけよ」
「ナメたこと抜かしてんじゃねえ。ハンデを付けるんなら今のうちだぜ」
 完全に目が座っているトリコと楽しそうに裂けた口元を歪ませるゼブラ。まるで殴り合いでも始まりそうな雰囲気だが、互いの口からは大量の涎が溢れていた。各自にドリンクが渡され、配られた紙エプロンを全員が首に巻く。ついに準備は整った。
「それでは、よーい……スタートッ!!」


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2012/05/26 12:23 | トリコ。

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