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2024/05/19 10:09 |
【生誕祭!】始まりの朝
5月25日です!トリコの誕生日です!
おめでとうトリコさん!わー!!



……はい。書き終わりませんでした。ちっとも進んでおりません。

とりあえず、できた分から土日の間にちらほらきまぐれに投下しようと思っています。
完結まで時間がかかると思いますので、いっそのこと来月とかに来ていただいた方がまとめて読めるから効率いいんじゃないかと。

へっぽこですみません_(:3」∠)_









 自分は非常に寝覚めのいい人間だと自負している。物心ついた頃から目覚まし時計に頼ったことは一度もなく、夢が途切れて瞼を開けば数秒とかからずベッドから起き上がることができる。これは何も十分な寝床と睡眠時間を確保できた時に限らず、洞窟での野宿だろうが朝方まで飲んでいようが関係ない。
 逆を言えば、二度寝ができない。一度覚醒してしまうとなかなか眠気は戻って来ないのだ。休日、リンがアラームを止めて布団にもぐりこみ直すのをよく見かける。幸せそうに涎を垂らす妹をうらやましく思ったことも一度や二度ではなかった。しかし、朝の澄んだ空気が一呼吸ごとに肺を満たしていく爽快感に比べれば、休日の特権と評されるほど価値のある行為とも思えない。これは決して負け惜しみなどではない。決して。
 睡眠といえば、非常に重要なのがその質だ。睡眠時間の長さに関係なく、よく眠れたと感じる時とあまり眠れなかったと感じる時がある。あまり眠れなかった、つまり質の悪い睡眠の場合、疲れが取れないだけでなく新陳代謝の活性化も望めない。パンパンにむくんだ顔を鏡で見ると、今日は何もいいことが起こらないと確信するほどにブルーな気持ちになる。ところが、ほんの短時間でも質の良い睡眠を取ることができれば、頭はすっきりと冴え渡り、新しく生まれ直した気分で一日を始めることができる。
 睡眠の質を考える上で非常に重要なのは、いかに自分に合った寝具を使うかということだろう。直接肌に触れる枕カバーやパジャマの肌触り、体を横たえるマットレスの弾力、掛け布団の重さ、その他諸々こだわりだせばきりがない。市販品から自分に合うものを見つけ出すよりもオーダーメイドで最初から自分のためだけにあつらえた方が、初期投資が多少余分に掛かっても長い目で見ればコストパフォーマンスは断然勝っている。
 何より寝具は皮膚の老化と切っても切れない関係にある。睡眠時の快適性もさることながら――。
「わかった、わかったから! 今起きるからちょっと待って……」
 心底うんざりした声でそれだけ言うと、ココは老人のような溜息を吐きながらむっくりと体を起こした。その動作の何と緩慢なことか。おまけに寝癖だらけの頭を掻きながらあくびをする姿の何と美しくないことか。
「ひっでークマ。むくんでるし、髭もちょっと伸びてるし。品がねーぞ毒占い師」
「一日中働いて疲れて帰ってきたのに、勝手にボクの家に入っていたどこかの誰かさんに夕飯を作るように強要されて、一番風呂を取られて、しまいにはベッドまで占領されたからね。おかげでボクは窮屈なソファーで寝る羽目になったんだよ」
 重そうな瞼の下からじとっとした視線が向けられている。実に不細工だ。美しい顔立ちが台無しではないか。見るに堪えない。
「さっさとシャワー浴びてこい。それから朝飯な。パンケーキの材料はキッチンに置いといた」
「本当、人の話聞かないなお前……」
 ココはぶつぶつと文句を言いながらも二階のバスルームへと上がっていった。足元が覚束ないのは低血圧のせいだろう。
 寝覚めがよくないことはココの悩みの一つであるらしい。子供の頃はトリコやゼブラの方がよっぽどねぼすけだったのに、歳を取るにつれてだんだんと起きにくくなってきたのだと昨夜溜息混じりに話していた。悩んでいると言うわりに家の中には目覚まし時計が見当たらないのを不審に思って聞いたら、トリコが止めようとして叩き壊してしまうから置かなくなったそうだ。聞いてから後悔した。
 くすんだ灰色のカーテンを開けば、きらきらと飛び込んでくる初夏の日差し。窓を開けて少し肌寒いくらいの風を室内に取り込むと、やっとこの家全体が目覚めた感じがする。
 勝手知ったる他人の家とばかりに、サニーはキッチンで手を洗い、ミルクパンに湯を沸かし始めた。昨夜の残りのミネストローネを温めつつ、ホウレンソウとベーコンをソテーする。ココに合わせて塩は控えめ、でも自分好みにブラックペッパーは多めで。その間に湯が沸いたので、卵を落としてポーチドエッグを作る。芸術的ともいえる完璧さで白身を纏め上げ、非の打ちどころのないバランスでソテーの上に盛り付けた頃に、髪を拭きながらココが下りてきた。
「また勝手にシャンプーの中身入れ替えたな。髪が柔らかすぎて落ち着かない」
「元から入ってたヤツよか確実に値段も質も上だぜ。感謝しろし」
「そういう問題じゃない。それから、トリコの着替えを勝手に着るなって何度言ったら分かるんだ。お前の匂いがつくとあいつ拗ねるんだよ」
「しょーがねーだろ。毒センスの服なんか頼まれたって着たくねーし。大体何だよその『DOKU』Tシャツ。自虐プレイにも程があんだろ」
「ボクからすればお前が着てるトリコの『NIKU』Tシャツと大差ないんだけど」
「その違いが分からんからダメなんじゃねーか」
 ココは爽やかな朝に似つかわしくない淀んだ溜息を吐くと、皿を手にダイニングへ向かうサニーとすれ違いにキッチンへと入って行った。
 
 ココの作るパンケーキはいつだってコンパスで描いたような正円で、焼き色にもムラがない。甘い香りの湯気を立てるパンケーキにナイフを入れると、ゆるくとろけたバターと濃厚なメイプルシロップが断面に染み込んでいく。添えられたチェリンゴのコンフィチュールも甘すぎず、しっかりと主役を引き立てつつも自己主張は忘れていない。
 これぞまさに調和。でも、隙がなさすぎてちょっとムカつく。
 余計な会話のない静かな食卓で、美しい朝食は順調に二人の胃袋へと収まっていく。パンケーキの最後の一切れをじっくりと味わったサニーは、紅茶を飲んで一息ついた。
「食い終わったら着替えて出発な。こっから第一ビオトープまでけっこ遠いから、キッスやクインに無理させたくねーし」
 小松との待ち合わせは十一時。今日は色々とスケジュールが詰まっているので、きちんとタイムスケジュールを組み立てて行動しなければならない。各自の性格や起こりうる出来事を考慮した上で一週間かけて練り上げたプランは完璧だ。
「ああ、言ってなかったけど、ボク今日は夜のパーティーだけ行くから」
「はぁ!?」
 青天の霹靂に危うくマグカップを落とすところだった。ココは涼しい顔で崩したポーチドエッグをホウレンソウと絡めている。
「昼前に予約が入ってるんだ。IGOとも付き合いの長い卸問屋の社長でね」
 今後の経営についての相談、夫人の腰痛、娘の就職と結婚、先祖の墓の改葬、果てはペットの病気まで、とにかく色々と占ってほしいことがあるらしい。お前も名前くらいは知ってるだろうと聞かされた店名は、先日暇つぶしで小松の仕入れに付き合った時に立ち寄ったうちの一軒だった。
「んなの延期なりキャンセルなりすれば良! こっちが優先に決まってっし!」
「今のボクは美食屋である前に占い師だ。見料も前金で戴いている」
「トリコの誕生日よりも占いの客のが大事なワケ!?」
「別に行かないとは言ってないじゃないか。仕事が終わり次第向かうよ」
 ココは淡々とソテーを口に運んでいる。
 これは完全に計算外だった。ココがたいそう偏屈者であることは重々承知しているつもりだったが、まさか仕事を入れてくるとは思わなかったのだ。せいぜい出掛ける時間になってから駄々をこねたり取るに足らない理由を見つけて外出時刻を遅らせる程度だろうと思っていたのに。
 ごちそうさま、と勝手に食事を終わらせてココは皿を洗い始めた。このまま支度をしてさっさと出掛けてしまうつもりなのだろう。
 そういえば、食卓についてからココは一度もサニーと目を合わせようとしない。そっちがそういうつもりなら、こっちは実力行使するだけだ。
 サニーは立ち上がると勢いよく窓を開け、外に向かって思いっきり怒鳴った。
「聞いてたなゼブラ! 第一ビオトープにその社長連れてこい!」
「おい!! 何考えてるんだ!!」
 慌てたココとしたり顔で笑うサニーの耳に、低い笑い声が風に乗って届く。ココは必死に遠くのゼブラに向かってやめろと叫んでいたが、二度と声が返ってくることはなかった。
 手を泡まみれにしたまま、ココは窓辺でがっくりと肩を落としている。
「客があっちに行っちまうんなら、前も行くしかねーよな」
 自分の皿を洗いながら鼻歌まじりに声を掛ける。恨めしそうな顔でこちらを睨んだココは、ふと顔を曇らせて視線を床に落とした。
「……嫌なんだよ、カメラ」
 短い言葉に山ほどの拒絶を詰め込んで、ココはじっと黙り込んでしまった。
「IGOに首輪付けられてる以上は仕方ねーし。いー加減腹括れ」
 洗い終わった皿を水切り籠に並べ、暗い思い出にズブズブと飲み込まれつつあるココの頭を丸めた雑誌でポコンと叩く。まったく面倒な毒人間だ。
「オレが側についててやる。松やゼブラだっている。どうしよもなくなったらこのビューティフルな髪で隠してやる。だからさっさと支度しろ」
 やっとココは首を縦に振った。


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2012/05/25 20:44 | トリコ。

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