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2024/05/19 12:27 |
【誕生日おめでとう!】3
ゼブラ誕生日お祝いテキスト最終話です。
いやもうどこが誕生日なんでしょうか。ちっとも祝われてないですねゼブラさん。
楽しそうな四天王が書きたかったんです。

とにもかくにも、ゼブラさん誕生日おめでとう!


何度も言うようですが、当ブログにおいてゼブラとサニーはノンケです。
本当です。








 ぷかりと吐き出された紫煙が換気扇に吸い寄せられて部屋の外へと去ってゆく。あの煙のように嫌な記憶もどこかへ飛び去ってくれたらいいのに。サニーのためにミカンの白い筋を取りながら、ボクはついさっき自分の身に起きた出来事を脳内から抹消しようと必死だった。
 さすがにあんなことがあった後すぐにケーキを食べる気にはなれなくて、仕切り直しも兼ねてボク達は麻雀を始めた。ルールはいつも通りの東南半荘アリアリ。最下位になれば、当然ボクが用意した罰ゲームを受けることになる。
 部屋の中央に鎮座したテーブルには正方形の緑色のマットが敷かれ、トリコの前には灰皿が、ゼブラとサニーの手元には缶チューハイが置かれている。童心に返ってゲームに興じていたボク達は、一転してくたびれた場末の雀荘に集う中年のような雰囲気を身に纏った。
 筋を取り終えたミカンをサニーに渡すと、今度はゼブラがミカンをよこした。トリコからもミカンが飛んでくる。いつも皮ごと食べるくせに、何でこういう時だけ剥かせるかな。少しはボクを労れよ。
「それポンな」
「おま、また食うのかよ。つくしさの欠片もねーな」
 サニーは徹底して美しい役にこだわる。サニーいわく、もっとも美しい役は『九連宝燈の面前ツモ』であり、リーチのみなどの美意識の欠片もない役は許せないのだそうだ。トリコとゼブラは特にポリシーはない。2人とも「とりあえず鳴く」ということでは共通しているが、トリコは食いタンに持ち込むことが多く、ゼブラは順子を作る傾向が強い。ボクは一九字牌を集めるのが好きだ。
 現在南の第四局。親はボク。この局が終了した時点での最下位が罰ゲームだ。今の順位はトリコ、サニー、ゼブラ、ボクだが、お互いの点差はわずかしかない。
 緊迫した空気の中、ボクの番が回ってくる。引いた牌は白。ボクは八萬を捨てて千点棒を場に出し、リーチを宣言した。これでトリコ以外の3人がリーチ。トリコは4回鳴いているので、あとは雀頭を揃えるのみ。
 剥き終わったミカンをゼブラに渡し、トリコに投げ返したら、2人とも一口で平らげてしまった。やっと自分のためのミカンを剥きながら、ゼブラの捨て牌を確認する。残念。その次に牌を引いたトリコは片眉を上げた。手牌と3人の捨て牌を何度も交互に見比べて、そっと捨てた牌は九萬。
 ……来た。
「ロン。悪いなトリコ」
「だあああ! やっぱりかよ! 絶対危ねえってわかってたんだよ!!」
 頭を抱えてがっくりとうなだれるトリコを尻目に、ボクは手牌をさらした。
「リーチ、一発、対々和、役牌、混一色、混老頭、三暗刻、小三元。数え役満だね」
「うっわ最悪だし!」
「暫定1位が一瞬にしてハコったか。さすがココだな」
 ちなみに、とトリコが残した方の牌を確認すれば、それはゼブラの上がり牌だったわけで。どっちにしろトリコの負けは決まっていたのだ。
「さて、ボクが用意した罰ゲームだけど」
 ボクは3人の前で紙を開いて見せた。
『ココと衣服を総取替えの上、片付けと皿洗いをすること。ただし、1枚たりとも皿を割ってはならない』
「いい歳こいてそんなトチ狂った色の全身タイツなんて着たくねえよ!」
「じゃあ素っ裸でアイスヘルの海に潜って来い。そして二度と浮上するな」
「すみませんごめんなさい是非着させてくださいお願いします」
 お互いパンツ1枚になって服を交換し合う。トリコが着用した姿を見て、改めて自分がいかにひどい格好をさせられていたのかを認識した。精悍な顔立ちも逞しく隆起した筋肉の造形美も台無しだ。
 トリコの服はボクの体には大きすぎて、子供が背伸びをして大人の服を着てみたような、これはこれでいたたまれない雰囲気を醸し出していた。それでも、不自然に右脚の膝から下を失った虹色の全身タイツと鼻眼鏡よりはましだ。
 だいぶ酔いの回ったサニーが眠そうに目を擦りながら紙片とにらめっこしている。
「おま、もしかして、ここまでの展開全部知ってた?」
「まさか。ボクが見たのは、何かに着替えさせられるってことと、ボクの罰ゲームが最後に引かれるってことだけだよ。それ以外は何も見てない」
 もしも全てを知っていたなら、全力で回避したさ。消し去りたい記憶がぶり返しの頭痛のように襲ってきて、ボクは慌てて頭の中から生々しい映像を追い出した。
 
 キッチンからはやや調子の外れた鼻歌と水音が聞こえてくる。今のところ皿洗いは順調なようだ。サニーは猫のように丸くなってすやすやと寝息を立てている。長い髪がふんわりと繭のようにサニーを包んでいて、まるで砂糖菓子のようだ。
「で、ケーキはいつ出てくるんだよ。冷蔵庫には入ってなかったぞ」
 ボクが自分用に剥いているミカンを勝手に食べながら、ゼブラが不満そうに鼻を鳴らした。
 時計の針が指し示す時刻は11時48分。あと15分足らずで2月9日は終わってしまう。
「ここにはない。もうすぐ届くはずだ」
「何だ、てめえが作ったんじゃねえのかよ」
「まるでボクが作ることを期待していたような口ぶりだな」
「チョーシ乗んな」
 その時、キッスとその背に乗った人間の電磁波が近付いてきた。よかった、何とか間に合ってくれた。
「さあ、お待ちかねのケーキがやってきたよ。悪いけど受け取ってくれないか」
「ああ? なんでオレが」
「トリコは皿を洗っていて手が離せないし、勝手につまみ食いするかもしれない。サニーは今から叩き起こしてもしばらくは寝ぼけてるからケーキを落とすかもしれない。そしてボクはご覧の通り動けない」
 そう。ボクは今サニーの髪に下半身をしっかりとホールドされていて全く身動きが取れないのだ。
 舌打ちしつつ玄関に向かったゼブラを見送って、ボクはそっとサニーの肩を揺する。ぱっちりと目を開けたサニーと一緒に音を立てないように立ち上がり、キッチンで皿を拭いていたトリコにも合図をしてそうっとゼブラの背中を追った。幸いにもアルコールが回ったゼブラはボク達の足音に気付いていないようだ。
 コンコンとノックの音が聞こえる。面倒そうにドアを開けたゼブラが驚いて固まった。
「すいません! 遅くなりました!」
 ドアの向こうには大きな箱を抱えた小松君がにっこりと笑って立っていた。ボク達3人も一斉にゼブラの背中に飛び掛かる。
「なっ、何だあ!?」
 ゼブラがおかしいくらいに動揺しているものだから、みんな一斉に声を上げて笑い出した。
「よっしゃ! ドッキリ大成功!」
「ボク達からのお前へのプレゼントだよ。食べたかっただろう? 小松君の料理」
「感謝しろよー!」
「うわ、何ですかトリコさんその格好!」
 やっと状況が飲み込めたらしいゼブラは顔を真っ赤にして、けれど小松君の手前ボク達を怒鳴りつけることもできず、悔しそうに舌打ちした。
「小僧、お前今日は1日中仕事じゃなかったのかよ」
「はい! でも、ゼブラさんのお誕生日にケーキを作らなきゃって言ったら、みんなが協力してくれたんです!」
「そ、そうか」
 照れている。あのゼブラが照れている。あまりに貴重なその姿に、明日の天気が心配になるくらいだ。
「さ、あがって小松君。日付が変わってしまう前にケーキを食べようじゃないか」
「そうですね! ゼブラさんのために腕によりを掛けて作りましたよ!」
 いそいそと大きな箱を抱えてリビングへと駆けていく小さな背中を目で追うゼブラに、ボクは小さく囁いた。
「誕生日プレゼントは気に入ってもらえたかい?」
 ゼブラはばつが悪そうに頬を掻くと、ぼそりと呟いた。
「ま、悪くはねえな」
 
 
 
Fin.

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2012/02/10 00:18 | トリコ。

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