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2024/05/19 10:09 |
【17 years before】ココの病気
書けば書くほど伸びていく不思議。ちょっとスランプ気味です。むむむ。
クリスマスネタを考えてはいるのですが、形にできるかどうか。。。
パソコンのメモリ増設みたいに自分の能力のメモリも増設したい今日この頃。

たくさんの拍手ありがとうございます。励みになります。


庭時代捏造(9)です。






「……オレは嫌だ! 絶対ココをこの部屋から連れ出してやる!」
 トリコは握りしめた拳をわなわなと震わせていた。
「だから、ボクはこの部屋を出る気はないって……」
「知るかそんなもん!」
 怒鳴り声がココの言葉尻を掻き消す。慌ててサニーがドアを閉め、光を失った室内をミニライトの灯りで照らした。困惑と怒りがないまぜになった表情のトリコはココに向かって一気に捲し立てる。
「お前、本とかたくさん読んでるから頭いいかもしれねえけどな、世界にはお前もオレ達も知らねえことがすげえたくさんあるんだぞ! うまい食い物だってたくさんあるんだぞ! オレ、ココのこと大好きだから、早く元気になってほしいんだよ! 一緒にうまいもの食ったり遊んだり修業したりして、んで一緒に美食屋になって、一緒に世界中の食い物探しに行きたいんだよ!」
 ココは半ば呆れ顔で溜息を吐いた。だからね、と穏やかな口調でもう一度同じ言葉を繰り返すココに焦れたトリコは、歯痒そうに足を踏み鳴らして叫んだ。
「だってお前、このままじゃ殺されるぞ!!」
 その瞬間、ココの顔が全ての感情を削ぎ落とした仮面のような無表情に変わった。その顔を見てハッとしたトリコは心底後悔したように目線を逸らす。
 腕組みをして壁に寄り掛かっていたゼブラは、横目でちらりとトリコを見た。
「……やっぱりとっくに気付いてたんだな」
 そして視線を前方に向ける。
「ココ。お前の打たれてる注射ってのは薬じゃねえだろ」
 鋭い視線に捉えられたココは身じろぎ、白い手で手術着の裾をきゅっと掴んだ。
「ボクは……詳しくは知らない。でも、ボクの病気は他の人に触れたら感染するって言われてるから」
「オレに嘘がバレねえとでも思ってんのか」
「…………」
 薄紫の唇が真一文字に閉じられた。
 ココの体を蝕む病気について、ゼブラ達はこれまでにも何度か尋ねたことがある。だがいつしかその質問はタブーとなっていた。ココが自分から語る以上のことを聞こうとすると、彼は必ず黙りこんでしまうからだ。しかし今日のゼブラはそれを許さなかった。
「相変わらず都合が悪くなったらだんまりか。でもな、心拍数が上がってんだよ。お前本当は知ってんだろ? 病気なんかじゃねえって」
 いつもならココを守ろうと助け船を出すトリコは、俯いたまま黙っている。ゼブラはその様子を確認すると、ひたとココの目を見据えた。
「お前が毎日毎日打たれてんのは、毒だな?」
 
 室内は水を打ったように静かになった。
 誰も口を開こうとしない。
 秒針の刻む規則的な機械音がカチカチと嫌に耳についた。
 
 やがて重苦しい空気に耐えられなくなったサニーが声を発した。
「毒って、抗体作りか? んなんオレだってやってんぜ! トリコだってゼブラだってもう10種類以上抗体できてっし。な?」
「そんなぬるい話じゃねえんだよ」
 ゼブラはにべもなく言い捨てた。サニーはまだ何か言おうと口を動かしたが、結局言葉が見つからなかったのか大人しく口を閉じた。
 3人の意識がココに集中する。ココは長い睫毛を揺らしてゆっくりと瞬きをした。
「……トリコは、どこまで知ってるの」
 掠れた無感情な声が響いた。トリコは顔を上げたが、言葉を選ぶように目線をさまよわせながら答えた。
「オレは、ココが毎日匂いが違うってことしか知らない。今まで同じ匂いだった日はほとんどなかった。知らない匂いが多かったけど、知ってるのは全部毒の匂いだった。部屋に入れてくれない日は鼻をつまんでてもわかるくらい血の匂いもしてた」
「そう。ゼブラは」
「修業さぼって裏庭で昼寝してたら、焼却炉の辺りから話し声がしたんだよ。覗いてみたら特殊医療班の奴らがお前の着てるような服を焼いてるところだった。話のほとんどは意味が分からなかったが、大体の流れでお前のことを話してんのはわかった。一番はっきり聞き取れたのは『どんな毒を投与しても死なない、何と恐ろしい化け物だろう』って言葉だ。お前がこんな所に住んでるのも、ちっとも具合が良くならねえのも、大っぴらにできねえ人体実験の材料として毎日毒を注射されてるってんなら説明がつく」
 眉ひとつ動かさずに2人の言葉をじっと聞いていたココは、やがてふうと息を吐くと、緩慢な動作でサイドテーブルに手を置いた。
「……そこまで知ってるならあんまり説明もいらないだろうけど、2つだけ補足させて」
 そうしてココが発した言葉に3人は耳を疑った。
「まず、ボクは自分が実験動物として飼われていることは理解してる。特殊医療班って名前は初めて聞いたけど、飼い主の研究者達で間違いないだろう。ボクの体は普通の人に比べると毒への耐性がかなり強いらしくて、毎日致死量の毒を注射されてもたいていは1日、長くても5日のうちに抗体が作れる。この4年間でできた抗体の数は182種類だ」
 彼はさらに続ける。
「それから2つ目。ボクが他の人と接触してはいけない理由がこれだよ」
 ココは3人の前に掌を下に向けて右腕を突き出し、目を閉じて大きく深呼吸をした。すると彼の手は指先から徐々にどす黒い赤紫へと変色し、指先から滲み出た黒い液体が雫となって垂れた。雫が床に到達した途端、ジュウッという音とともに煙がひとすじ立ち昇り、ツンとした刺激臭が辺りに漂う。
「ボクの体は様々な毒や化学物質を生み出すことができる。短期間に色々な毒を注入したせいらしいけど、本当のところはわからない。右手以外はまだうまくコントロールできないから薬で何とか抑えてて、それでも時々皮膚の表面に滲み出てくるんだ。ドクターも他の研究者達もボクの体に触れる時はゴム手袋をはめているよ。死ぬかもしれないからね」
 いつも目隠しに使っていた布を右手首にきつく巻き付けると、赤紫色は少しずつ薄れて元の青白い肌色へと戻った。
「今まで嘘吐いててごめん。ボク、化け物なんだ」
 ココは赤みの引いた右手をじっと見つめていた。
 
 
 
Fin.

拍手[16回]

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2011/11/23 21:14 | トリコ。

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