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2024/05/19 09:32 |
【17 years before】3人の企み
最近めっきり寒くなってきましたね。肉まんと焼き芋が恋しいこの頃です。
そろそろホットカーペット出さねば。

庭時代捏造(8)です。




拍手ありがとうございます。励みになります。
お返事1件です。

>なんだか~の方
はじめまして!当ブログにお立ち寄りいただきありがとうございます。
おいしそうですか!?よかった!
ココ誕で一番時間がかかったのは実はメニュー決めでしたw
みんながおいしそうなものを楽しそうに食べている様子が書きたかったので、すごく嬉しいです。
よかったらまた遊びに来てくださいね。






 あの日から、ココの部屋は毎晩賑やかになった。
 トリコ達は食堂ではいつも通りに振る舞い、バラバラに席を立つ。そしてめいめい勝手にうろついたり部屋に一度戻ったりしてからココの部屋を訪れた。ココの体調が優れない日は一番に辿りついた者が他の2人に知らせ、ココの体に負担を掛けないようにした。
 サニーに書庫の本を読み聞かせたり、ゼブラとトリコの喧嘩を仲裁したりするうちに、年長者ということもあってココは自然と4人の中でのまとめ役に収まった。
 毎日のように3人と接するうちに、徐々にココは人間らしく、子供らしくなっていった。少しずつ自己主張ができるようになると、芯の強い頑固な一面が顔を出し、サニーやゼブラと口喧嘩をしてむくれたりするまでになった。
 ここまで表情が豊かになったのはサニーの努力の賜物だろう。毎日根気よく顔筋体操をやらせたり表情を真似させたりして、ついには半年かけて自然に笑顔になれるところまで漕ぎつけたのだ。
 
 しかし一番の衝撃は、それからさらに1ヶ月後、ゼブラによってもたらされた。
 ある日、トリコがいつも通りに走り回ってからココの部屋に向かうと、ドアの前でゼブラとサニーが立っていた。ゼブラはドアノブを押さえている。
「何してんだ?」
「お前を待ってたんだトリコ」
 首を傾げる2人の前で、ゼブラはニヤリと笑うとドアを3回ノックして中に声を掛けた。返事が聞こえたことを確認してドアを開ける。ただし、いつものようにぎりぎり体が入るくらいの隙間ではなく全開に。
「おま、開けすぎだろって……え?」
「コ、ココ!?」
 扉の向こうにいたのは、目隠しをせずにしっかりと瞼を開いてこちらを見るココだった。廊下から差し込む蛍光灯の灯りに照らされた顔は一層白く、髪と同じ黒い睫毛に縁取られた漆黒の瞳と薄紫の唇がくっきりと浮かび上がっている。
「驚いた? ゼブラが内緒で特訓してくれてたんだ」
 ココは目玉を落っことしそうなほどに仰天している2人を見てえへへとはにかんだ。
「大丈夫なのか? 目、痛くないか? ゼブラに脅されて無理矢理我慢してるんじゃないよな!?」
「つくしー! やっぱ明るいとこで見るとパネェつくしーぞココ!」
「静かにしろてめぇら! 誰か来たらどうすんだ!」
 興奮して騒ぎ立てる3人の間でさっそく小競り合いが始まった。わあわあと罵り合う彼らをじっと見ていたココは、つかつかと歩み寄ると彼らを交互に眺めた。ニコニコと微笑んでいるココに毒気を抜かれてトリコ達の声もどんどんトーンダウンする。
「ど、どした?」
「あのね、きれいだなあと思って」
 3人の顔に疑問符が浮かぶ。ココは微笑んだまま言葉を続けた。
「サニーの髪の色は白と青と緑とピンク。トリコの髪の色は青。ゼブラの髪の色は赤。光の下で見るとこんなにきれいなんだね。ボクは暗闇でも物が見えるけど、光がある世界にしか色はないだろう?だからこうしてみんなの本当の色を見られてすごく嬉しいよ」
 満足げに目を細めるその顔につられてトリコの頬も緩む。その背中をゼブラとサニーが手加減なしに引っ叩いた。
「あとはお前だけだぞ、言い出しっぺ」
「オレ達より1ヶ月早えーくせにビリとかありえなくね?てかもうバラした方がココもきっと協力してくれるし」
「あっ馬鹿!」
 慌ててサニーの口を塞いだが時すでに遅し。しっかりと聞こえてしまっていたようだ。ココの視線から逃げるようにトリコはしばらく目を泳がせていたが、やがて意を決したように向き直った。
「ココ。オレ達と一緒にこの部屋を出ないか?」
 その瞬間、ココが息を呑むのが分かった。
「この部屋を……出る……?」
「そうだ、出るんだ。こんなとこにいたって元気になんかなれるわけねえよ。上には色んな医者がいるし、薬だってたくさんある。空気だってこんなに澱んでない。ココの病気なんかあっという間に治っちまうって!」
「んで治ったらオレ達と一緒に住むんだし! 顔筋体操もゼブラの特訓も、実は全部ココがオレ達と暮らすのに困んねーよにするためだったんだぜ!」
 3人がココをこの部屋から連れ出したいと思うようになったのはつい最近のことではない。自分達に比べてココの置かれている環境はどう考えても異常だ。ココの主治医はなぜこんな所に彼を閉じ込めているのか。毎日注射を受けているとは言うが、なぜ一向に良くならないのか。もっとまともな医者に見せた方がココの具合も良くなるのではないか。毎日青白い顔の彼を見るたびに疑念は募った。
 しかしうまく連れ出せて治療を受けられたとしても、その先ちゃんと生活できなければ意味がない。そのためには乗り越えなければならない3つの壁があると彼らは考えた。まず第一に、明るい所で目を開けられないこと。第二に、普通の食物を食べたことがないこと。そして第三に、感情表現や表情が乏しいこと。
 3人は分担を決め、それぞれの方法でココにその壁を乗り越えさせようと試みてきた。
「あとは飯さえ食えりゃ問題ねえのによ。なあトリコ?」
「わかってるよ! 何度も言うな!」
 勝ち誇った表情のサニーとゼブラに挟まれたトリコは決まりが悪そうに舌打ちする。
 トリコはこの部屋を訪れる時は必ず夕食の一部をパンに挟んで持参していた。最初はおっかなびっくり観察するだけだったココも、徐々に書庫から持ってきた図鑑と比較しながら色々と質問をしてくるようになった。けれど、トリコがどんなに勧めても、目の前で食べて見せても、サプリメント以外を口にしたことのないココはどうしても口に入れようとはしなかった。
「それは……無理だよ」
 目を伏せたココはぽつりと呟いた。
「そんなことねえって! 笑うのも光に慣れるのもできただろ? 飯食うのだって頑張れば……」
「そうじゃない」
 ココはゆるゆると首を振った。その顔には、怯えでも諦めでもない、奇妙な表情が浮かんでいる。
「ボクは、この部屋からは出ないよ」
 目を見開くトリコをまっすぐ見つめてココは笑った。
「友達ができたことだって、本当は信じられないんだ。なのに、みんなと一緒に笑えるようになれて、こうして光の中で物を見ることができるようになれて、それだけでボクは十分だよ。ありがとうトリコ、サニー、ゼブラ」
 屈託のないその笑顔と言葉には翳りなど微塵もなかった。
 
 
 
Fin.

拍手[14回]

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2011/11/10 20:28 | トリコ。

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