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2024/05/19 10:45 |
【君を思う日】
日付が変わったので今日は文化の日ですね。統計上驚異的な確率で晴れる日です。
世の中の小学校はみんな文化の日に運動会をやればいいのに。


トリコのテキストでは初となる短編を1本投下です。
時期的にはフグ鯨編の前。
着用時は(以下略)と違って、このタイトルはすぐに決まりました。

トリココなのにトリコが出てこないという。だから誰得……_(:3」∠)_






 昼間だというのに、どんよりとした曇り空。風にあおられた雨粒が音を立てずに窓ガラスに張り付く。
 グルメフォーチュンの本日の天気は、曇り時々雨。
 窓辺に頬杖をついてつまらなさそうに外を眺めていたサニーは、触覚でビスケットの袋を手繰り寄せた。ガサガサと袋を開ける音に続いて、部屋の中にふんわりとメイプルシュガーの甘い匂いが漂う。
 椅子に座って新聞を読んでいるココは、手元から目を上げもせずに呟いた。
「お行儀が悪いぞ」
「子供扱いすんなし」
 さくさくと小気味よい音が静かな部屋に響く。
 何もない、本当にすることのない一日。
 
 サニーがココをハントに誘ったのは先週だった。その時の天気予報は「一週間後までは晴れが続くでしょう」と自信満々に告げていたのに、雨雲の接近する速度は予想外に速かったらしい。別に雨が降ろうといつもならば気にしないのだが、今回のサニーのお目当ては晴れの日の午前中にしか収穫できない果実だったので、残念ながら延期となった。
 ココの店は1日休みにしてしまったし、お互い他に行きたいところもやりたいこともないから、こうして2人で家に引きこもっているというわけだ。
「つまんね。つーまーんーね。何か面白いことねーの?」
「ないよ」
 ビスケットをつまみながらサニーがココのそばにやって来る。テーブルの上にはスクラップブックと鋏、糊が置かれ、その脇に新聞や雑誌の切抜きがいくつも重なっていた。
 ひょいと持ち上げた1枚は、雑誌のカラーページからの切抜きのようだ。光沢のある紙面には『美食屋四天王トリコ、また新たな食材を発見!!』という見出しが鮮やかに躍り、奇妙な形の木の実を手に笑っている青い髪の男の写真が載っている。他の切抜きも、全てトリコの活躍を紹介するものばかり。
「大漁だな」
「内容なんてほとんど似たり寄ったりなのに、いろんな媒体に掲載されてるからさ」
 切り抜くこっちの身にもなってほしいよ、とココは笑った。
「IGOもどんどん宣伝に使いてーんだろ。『グルメ時代のカリスマ』なんてキャッチフレーズつけるくれーだし」
「一番まともに美食屋の仕事してるのはあいつだからな。この間はレストランの新メニュー開発にも関わったらしい」
 スクラップブックを手に取ると、その記事が貼り付けられた箇所を開いてサニーの前に差し出した。糊が乾いて波打ったページには大小様々な新聞記事が数枚並べて貼り付けられている。それぞれの下に小さく半年ほど前の日付が書き添えられていた。
「最近はほとんどが新食材発見関連の記事だよ。ハントに夢中になりすぎて無茶をしてないといいんだが」
「最後に会ったのいつだ?」
「……2年くらい前、だったと思う」
 新たな記事を見つけたらしく、ココは鋏を手に取る。スクラップブックを捲りながらサニーはぼそりと呟いた。
「直接顔見に行けよ。んなことチマチマやってる暇があったら」
 ココは答えずに黙々と鋏を動かした。
 
 サニーは2袋目のビスケットの袋を開けた。チョコレートのほろ苦い香りが湿度を増した室内に広がる。
 ココは切抜きを並べてじっくりと見比べていたが、やがて1枚だけカラー記事を脇によけると、それ以外をスクラップブックに貼り付け始めた。
「んで、オレのは?」
「探したけど見つからなかった。最近何か取材受けたか?」
「記憶にねーなぁ。最近あんまハント行ってねーし」
 ブックスタンドから週刊誌を幾つか抜き取り、触角で同時に開いてページを捲る。何度か同じことを繰り返し、やっと1枚の広告を見つけた。
「これは? 2ヶ月前のコラーゲンドリンクの広告」
「それ前回使ったぞ」
「マジか。じゃあもうねーと思うし」
 困ったな、とココは腕組みをして考え込んだ。
「別になくても良んでね? お前のだってねーじゃん」
「ボクは美食屋休業中だからいいんだよ。……そうだな、じゃあ代わりに何かメッセージ書け」
「はぁ!? んでオレがんなことしなきゃなんねーワケ?」
「その記事貼った横に1行書くだけでもいいから」
 ココはペンと便箋を取って来た。ぶちぶちと文句を言いながらもサニーは便箋の上で記事の角度を真剣に調整し始める。その隣でココは時折手を止めて思案しながら文章を綴り、最後に人差し指から毒の雫を一滴垂らした。サニーは記事を貼り終えた脇にさらさらとペンを走らせた。
「ん、つくしく書けたぜ」
 便箋を覗き込んだココが溜息を吐いた。
「お前な、いくら面倒だからって、そんなにでかでかとサイン書くなよ」
「良んだよ。これならひと目でオレが元気だってわかんだろ?」
 お前こそ、とサニーはココのしたためた文章を指差す。
「びっしり書きすぎ。んな色々書いたって返事なんか返って来たことねーじゃん」
「あいつから返事なんて来たら、それこそ夏に雪が降るんじゃないか?」
 この雨じゃ糊が乾くまで時間がかかりそうだからと、ココは席を立って紅茶の準備に取り掛かった。
 スクラップブックは新しく切抜きが貼られたページを広げて置かれている。サニーはその横に便箋を並べた。窓の外には一欠片も見えない青が、紙の上にはたくさん輝いている。
 本当に、こんなことくらいしかすることのない、退屈な一日。
 
 
「郵便だ」
 怯えた声が短く響き、処刑場の窓から1通の封筒が放り込まれた。逃げるようにして足音が遠ざかる。
 人並み外れて巨大な体躯を持った囚人は、横たえていた体を起こしてそれを拾い上げた。
 それは月に一度必ず届く、腐れ縁の仲間からの便り。
 1枚目の便箋には丁寧な字で近況報告と彼の体調を案ずる文章が綴られ、文末には赤紫のインクのような染みがひとつ。2枚目には新聞の切抜きが1枚貼られた脇に芸能人のようなサインが添えられている。
「チョーシ乗ってんな」
 大型獣用の鎖に繋がれた赤い髪の男は、手紙を読み終えるとすぐに部屋の隅に置かれた箱を開けた。そして同じ封筒がいくつも入っているそこに無造作に放り込むと、またごろりと横になって目を閉じた。
 
 
 
Fin.

拍手[8回]

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2011/11/03 01:16 | トリコ。

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