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2024/05/19 10:45 |
【HappyBirthday!】Afternoon
こんにちは。今回は余裕を持って投稿です。
だがしかし、これから先がやばいです。せっかく休み取ったんで頑張ります。

リンの一人ファッションショー。ココも着替えました。






 クローゼットの前で腕を組み、仁王立ちすること実に1時間。リンは今夜のパーティーに着て行くドレスを決めかねていた。
「ライトグレーの3ピース、チャコールグレーのピンストライプシャツにピンクのネクタイ、シルバーのタイピン、ピアスはいつものやつ……」
 兄がココのために揃えた服を思い浮かべながら鏡の前で片っ端から手持ちのドレスを合わせてみる。
「なんかなー、どれもイマイチって感じだし」
 赤、黒、ピンク、水色、オレンジ、シャンパンゴールド……。それぞれに気に入ったものではあるのだが、何だか物足りない感じがした。今からデパートに出掛けても、すぐにピンと来るものに出会えるとは到底思えない。やはり昨日兄と一緒に買い物に行けばよかったと心底後悔した。
 今日はココの誕生日パーティー。会場はホテルグルメ。当然トリコもきっちりとめかしこんで来るだろう。筋肉質な体に精悍な顔立ちの彼は、普段のラフな格好ももちろん似合っているが、スーツを纏い髪を撫で付けた姿は非常に魅力的だ。明るく豪快に笑う顔も、食べ物を目の前にして子供のようにきらきら目を輝かせた顔も、怒りによって鬼の形相へと変貌した顔も、どれもリンの心を惹きつけてやまない。
「うわ、うち超恋する乙女の顔してるし」
 鏡の中のにやけた自分の顔を見て思わず苦笑した。
 思春期を迎え、兄達を男性として意識するようになった頃、自分の中にトリコへの恋心が芽生えていることに気付いた。そして、自分がトリコを見つめるのと同じ眼差しで、トリコがココを見つめていることも。
 どうせ今日だってトリコはココのことしか見ていないだろう。だったら、ココ越しでいいから彼の視界に収まりたい。そのためには横に並んだ時に様になるドレスを着てココの隣の席に座るのが最善策だ。
「あー、ココが女じゃなくてマジ良かったし! 同じ女だったら勝ち目ゼロだもん」
 別にココを押しのけてトリコの一番になりたいとは思わない。穏やかで優しいココのこともトリコと同じくらいに大好きなのだ。だから、トリコがココと右手を繋ぐのなら、空いた左手を繋ぐ相手になりたい。トリコの周囲の女性の中での一番になればいい。
「んーやっぱこれかなあ。ちょっと狙いすぎかもだけど、お兄ちゃんだったらこれ選ぶよね」
 光沢のあるピーコックグリーン。ココといえばやはり緑だろう。ピンクとの相性もいい。シルバーのカチューシャを合わせておしとやかに振る舞えば、トリコも褒めてくれるかもしれない。
『リン、今日は一段と綺麗だな。惚れ直したよ』
『トリコ……』
『リン、実はオレ、ずっとお前のことが……』
「……なんつって! きゃー! やだマジやばいんですけどー!!」
 恋する少女にありがちな妄想に浸ってのたうち回っているところに携帯が鳴った。この着信メロディは今まさに妄想の中でリンを抱きしめている想い人。
「っはい! もしもしトリコ!? ……え? うん、研究所にいるよ! ……うん……わかった! うちに任せて! うん! じゃあね!!」
 電話を切るなり、フレグランスバズーカを装着して部屋を飛び出した。グルメ研究所の廊下をバタバタと走る姿は残念ながらおしとやかとは程遠い。
「おらぁ! 待ってろチーズチーター!」
 
 点滴スタンドに縋りながらゆっくりと滑走路を歩いてくるココをサニーは黙って見つめていた。足取りは重く、左足を引きずっている。手術着から覗く体には包帯が何重にも巻かれ、元は白かったはずのそれは赤と茶と紫の斑に染まっていた。
 触覚や手を差し伸べようにも、毒の制御ができていない状態の彼に触れれば即死する可能性もある。セスナに積んであったネオトマト3ケースとエアアクア20本を彼の方へ押しやると、包帯の隙間からわずかに覗く口元を歪ませて笑った。
「16時7分。お前の言った通りだなミイラ男」
 手を触れると、ネオトマトからは煙が上がり、エアアクアのペットボトルは溶けて中身がこぼれ出した。そんなことを気に掛ける様子もなく、ココはその場に座り込んで無言で食べ始めた。溢れる果汁を音を立てて啜り、水分を口端からぼたぼたとこぼしながら一心不乱にがつがつと貪る姿は、普段のココからは想像もつかない品のなさだ。新鮮な果肉の味を楽しむでもなく、空腹が満たされる幸福感を味わうでもなく、ただグルメ細胞のためだけに食料を胃袋へと押し込む作業が黙々と続けられた。
 ネオトマト2ケースを空にしてやっとココは手を止めた。点滴を引きちぎるように抜き、包帯を外してゆく。毒の引いた肌は青白く、そこかしこに痛々しい傷痕や爛れが赤く腫れ上がっていた。セスナの影に移動して全ての包帯と手術着を取り去ったココは頭からエアアクアを浴びて全身を清め、その体をサニーが目で確認する。
「背中のケロイドがけっこ目立つ。それから左太腿と右肩の縫合痕。顔はあんまわかんねーから大丈夫だ」
「よかった、それくらいなら服を着れば隠れる。ディナーを食べ終わる頃にはすっかり消えてるだろう」
 タオルで体を拭いているとサニーがぬっと手を突き出してファッションブランドの大きな紙袋と小さな香水瓶をココに渡した。
「ほれ、誕プレ」
「助かるよ。ありがとうサニー」
 香水瓶の銀色の蓋を開けると、ふんわり紅茶の香りが漂った。ココは臍下と膝裏に吹きかけてから上空に一吹きしてその下をくぐり、スーツに着替える。
「さてと、ここからは気持ちを切り替えていかないとな」
 2人を乗せたセスナはホテルグルメを目指して飛び立った




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2011/10/29 14:15 | トリコ。

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