忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/19 09:32 |
【17years before】出会い
来月のココさんの誕生日には、それっぽい話を書きたいなあ。

庭時代捏造(4)です。会話に頼りまくり。






 目が合ったと思った次の瞬間、黒髪の少年は両腕で顔を覆い悲鳴を上げた。床に倒れ込み、もがくように体を反転させてベッドの影に逃げ込んだ。わずかに覗く背中は小刻みに震えている。
「眩しいっ……痛い……目が痛い……っ!」
 突然の悲鳴に驚いて立ちつくしていたトリコは、我に返るとすぐにドアを閉めた。窓のない部屋は唯一の光源を失い、視界は墨一色に塗り潰されて何も見えなくなった。
 
 荒い呼吸音が落ち着いてきたのを見計らって、トリコは少年の逃げた方へ声を掛けた。
「だ……大丈夫か?」
 姿は見えないが、体を起こしたことが気配でわかる。暗闇の中、先程逃げ込んだ場所よりさらに遠ざかった位置から、あなたは誰、という声が聞こえた。警戒心をあらわにした棘のある声だ。どんな表情をしているのか、この暗闇では伺うことはできない。トリコはなるべく彼を刺激しないように慎重に声を出した。
「オ、オレはトリコだ。お前は?」
 彼は答えなかった。代わりに、どこから来たのですか、という言葉が返ってきた。
「えっと……外? つーか、上? 上の階から来た。なあ……」
暗闇からの質問は一方的に続く。
――なぜここに来たのですか。
「んと、友達とかくれんぼしてて、オレいつも食堂のそばに隠れてすぐ見つかるから、だから今日は絶対に見つかんないとこに隠れようと思ってたら、ここを見つけたんだよ」
――友達?上にはトリコの他にも子供がいるのですか。
「は? 当たり前だろ。子供も大人もたくさんいるぜ。お前だって友達いるだろ?」
――いません。ボク以外の子供は初めて見ました。
 思わぬ返答にトリコは驚いた。数十人の仲間達と共同生活を送るトリコにとって、彼の言葉はにわかには信じられないものだった。
 ドアを閉める前に一瞬だけ見えた顔を思い出してみる。そういえば、施設では見かけたことのない顔だ。
「……お前もしかして、ここに住んでんの?」
――はい。
「しかも、この部屋から出たことねえの?」
――ないです。
「一度も?」
――はい。
「なんで?」
――ボクは病気だからここから出てはいけないと、ドクターに言われているのです。
「病気って何の? もしかして目か? それでさっき苦しんでたのか?」
――……。
「あ……! ごめん! 今のナシ!」
 慌てて撤回したが、少年は黙り込んでしまった。せっかく棘が薄れてきたのに、2人の間に気まずい沈黙が流れる。
 重苦しい空気に耐えられず、トリコは口を開いた。
「なあ、一人で寂しくないのか?」
――毎日、ドクターが注射をしに来てくれます。たまに検査の為に他の人も来ます。だから、寂しくはないと思います。
「それみんな大人だろ? 遊んだりしてくれないんだろ? そんなのつまんねえじゃん」
――遊んだことがないのでよくわからないです。
 少年は戸惑っているようだった。自分が寂しいかなんて考えたこともなかったのだろう。
 気付けば、言葉が勝手に口から飛び出していた。
「そうだ! オレ、お前の友達になってやるよ! そんで、これから遊びに来てやる!」
 自分でも少し驚いたが、この気持ちに嘘はなかった。
――……トリコが、ボクの友達に?
「ああ! だってお前、友達いないんだろ?」
――いません。
「じゃあ今からオレはお前の友達第一号だ! いいよな?」
――友達。トリコは、ボクの、友達。
 少年の声からはもう警戒心は感じられなかった。小さな声でトリコの発した言葉を反芻している。
 トリコは改めて少年に名前を尋ねた。やや間があって、少年の声が返ってきた。
 
 
――ココ。ボクの名前は、ココ。
 
 
 
Fin.

拍手[6回]

PR

2011/09/14 23:30 | トリコ。

<<【17 years before】秘密の友達 | HOME | 【17 years before】かくれんぼ>>
忍者ブログ[PR]