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2024/05/19 12:27 |
【17years before】夜が動き出す
こんばんは。
柏餅は断固みそあん派。mayutoです。

トリコ最新刊、クッキングフェス始まりましたね。
ひそかにゆうじ氏ファンなので、今後の展開に期待しています。活躍の場はあるのか、ゆうじ氏!



庭時代捏造(11)です。









 夕食後の自由時間。トリコの部屋は足の踏み場もないほど衣類が並べられている。
 クローゼットの中身を全て引っ張り出したサニーは、ああでもないこうでもないと言いながら上下の組合せを検討するのに忙しい。シャツとズボンの隙間のわずかなスペースに座ったゼブラはせんべいを齧っている。両耳を塞ぐヘッドフォンは音楽を聞いているのではなく、賑やかなはしゃぎ声や雑多な生活音を常人レベルにまで遮断するためのものだ。
「ちょ、食べカスこぼすなって。キショイ虫が湧いたらどうすんだし」
「構やしねえよ。オレの部屋じゃねえ」
 それもそうだと追及を止め、サニーは再び洋服の海と向き合った。1着のパーカーを広げてしばらく眺めていたが、いいアイデアがひらめいたのか入り口付近に積み上げたズボンの山へと手を伸ばす。そこへ部屋の主が息を弾ませて帰ってきた。
「げっ、全部出すなって言ったろサニー! お前絶対片付けねえくせに! あっ、せんべいオレにもくれ!」
「てめえの分はねえよ! これはオレのだ!」
「おい服踏むな! もうちょいでパネェコーディネートが完成するとこだったし!」
 元々個性も我も強い3人、あっという間に取っ組み合いの喧嘩が始まった。ところが時計を見上げたトリコはすぐに手を引っ込め、ゼブラとサニーもお互いの胸倉を掴んでいた手を離した。そう、今夜は喧嘩などしている暇はないのだ。
 3人は服の山を掻き分けてスペースを作り、額を寄せ合った。
「オヤジは9時頃着くらしい。マンサムが電話でウーメンと話してたから間違いねえ。そっちは?」
「さっきまで研究棟を見張ってたけど、薬品を運んでる連中の中にジジイはいなかった。多分、ココの部屋にいるんだと思う」
「……ひでーコトされてねーと良けどな」
 サニーは苦々しく吐き捨てた。
 昨夜、本当はすぐにでもココをあの部屋から連れ出したかった。だがこの施設で実質的な権力を握っているのは特殊医療班を率いる例の老人であり、所長のマンサムですらあの男に意見しているところは見たことがない。あの男を敵に回してまで自分達の味方についてくれる大人がいるとは思えなかった。
 ココがいなくなったと分かれば、特殊医療班は血眼になって敷地中を探し回るだろう。誰にも見つからずに匿っておける場所があったとして、ココはいつまでその場所にいればいいのか。結局は閉じ込める場所が変わるだけなのではないか。3人は頭を抱えた。
 考えに考えた末、連れ出したその足で一龍の元に向かい直談判するという結論に至った。多忙な一龍がこの施設に立ち寄るのは月に数回程度だったが、幸いにも今日がその日だったのである。
 トリコがベッドの下から皺くちゃの紙を取り出して広げた。それは上部に『ココきゅうしゅつだいさくせん』と書かれたノートの切れ端だった。何度も何度も消しゴムで消した跡があり、文字はだいぶ読みにくくなっている。トリコはひとつひとつ指差しながら確認を始めた。
 全員一緒に風呂に入った後、まずゼブラが浴場を出て、目と耳で特殊医療班の居場所を確認する。万が一ココのそばに誰かがいるようなら、音弾を飛ばして引き離す。
 次にサニーが出る。サニーは一度部屋に戻り、ココに着せる衣類をまとめた袋を取ってくる。手術着姿のまま敷地内をうろついていたのではあまりにも目立ち過ぎるからだ。
 最後にトリコが出る。トリコの合図が聞こえたら、ゼブラはサニーに合図を送り、3人同時にココの部屋に向かう。ココの部屋で合流後、ココを着替えさせ、部屋を出る。
「ここまではいいんだよ。問題はこの後どうやってオヤジの部屋までココを連れて行くかだ」
 そう言うと、トリコはゼブラの顔を見た。
 ゼブラはポケットに手を突っ込むと、1枚の地図を取り出した。それは守衛室からこっそり拝借してきた敷地内の見取り図だった。一際大きな建物に赤い点、そこからやや離れた所にある建物に青い点、そしてそれらをつなぐ緑の線が3本書き込まれている。
「この赤いのがココの部屋。この青いのがオヤジの部屋だ。中庭を突っ切るのが最短ルートだが、一番人目につきやすいし、途中で特殊医療班の研究棟の前を通ることになる。だからこのルートは使えねえ」
 1本の線の上にバツ印をつける。
「次に短いのが飼育棟の裏を抜けるルート。これもダメだ。先週から工事してて通行禁止になってる」
 バツ。最終的に残ったのはくねくねと曲がりくねったルートだった。
「果樹園の中を通るのが一番確実だな。センサーやトラップは仕掛けられてねえし、収穫が終わってるから見回りもない。夜行性のチェインアニマルが住み着いてるから夜は立ち入り禁止だが、こないだ暇潰しついでにさんざんいたぶってやったから、オレが先頭を歩きゃ近寄って来ねえだろ。遠回りな分下手するとココの体力が持たねえが、そしたらトリコが背負えばいい。サニーはとりあえず触覚でハエでも追っ払っとけ」
「んなキショイこと誰がすっかアホ!」
 サニーの蹴りが口火を切り、上を下への殴り合いが始まった。どさくさに紛れてせんべいに手を伸ばす怪しい影をゼブラが見逃すはずもなく、脳天に肘鉄を食らったトリコもなかば強制的に参戦させられる。それまでの真剣な表情はどこへやら、大喧嘩は1時間以上も続いた。


 思わぬ形で体力を使ってしまったトリコは、喧嘩が終わってからもしばらくは動けなかった。しかも、服を選び終えたサニーが片付けないままトイレに行ってしまったので、起き上がった後は部屋中に散らかった衣類を1人で片付けなければならなかった。ゼブラは素知らぬ顔で勝手に本棚から出した漫画を読んでいる。床だけでなく机や棚の上にまで服が飛び散らかってしまったのは主に彼のしわざだというのに。
 畳み直すのが面倒だからと手当たり次第にクローゼットへ投げ込んでいたトリコの手がふいに止まった。その手に掴んでいるTシャツにはデフォルメされたネズミのキャラクターがプリントされていた。

 ――ネズミに、触ったことがあるんだ。
 トリコと手を繋いだまま、ココはぽつりと呟いた。今にも消えてしまいそうなか細い声だった。
 ――いつだったか、ドクターが白いネズミを連れてきた。その時ボクは新しい抗体を作り終えたばっかりで、手にはまだ毒が滲んでいた。でも、ドクターが触ってもいいって言ったから、ボクはネズミを掌に載せたんだ。小さくて、あったかくて、柔らかかった。
 3人はじっとココの言葉に耳を傾けた。
 ――ネズミはボクの腕によじ登ろうとしたり、鼻をひくひくさせて匂いを嗅いだりしてた。かわいくて、嬉しくて、何度も白い背中を撫でたよ。そしたら急にネズミが大きな鳴き声を上げて痙攣し始めたんだ。血を吐きながら苦しそうにもがいて、……あっという間にネズミは死んでしまった。なのに、ドクター達は素晴らしいってボクを褒めるんだ。次は小鳥。その次はウサギ。ネコ。イヌ。ボクの体に触れた生き物は、みんな血を吐いたり泡を吹いて死んでしまった。
 その時の様子を思い出したのだろう。一旦収まった震えが再び大きくなる。
 ――毎日君達が来てくれるのが嬉しくて、でもいつかあのネズミのように君達も殺してしまうんじゃないかって思うと、怖くてたまらなかった。
 ――今もまだ怖いか?
 トリコは両手でココの右手を包み込んだ。
 ――……みんなと一緒にいたいから、怖くなくなるように頑張るよ。
 目を伏せたココは躊躇いがちにトリコの手を握り返した。

「……サニーの奴、たかが便所に行っただけなのにずいぶん遅くねえか?」
 ゼブラは読み終えた漫画を床に放り投げ、時計を見上げた。サニーが部屋を出て行ってから30分以上が経過している。もうすぐ入浴の順番が回ってくる時刻だ。
「どうせ鏡の前で延々髪の毛いじってんじゃねえの。ちゃんとブラシかけてから洗わないとナントカが傷むとか言ってたぜ」
「案外、腹壊して便所から出られなくなってたりしてな」
 軽く笑い飛ばそうとしても、お互いの頬は引き攣っていた。ココの告白が2人の脳裏をよぎる。あり得ない話ではないのかもしれない。
 ゼブラがヘッドフォンを外し、様子を見に行こうと立ち上がりかけた時だった。
「トリコ! トリコはいるか!」
 弾けるようにドアが開き、マンサムが入ってきた。常に酩酊し上機嫌な印象が強いマンサムだが、出入り口を塞ぐように立つ彼は神妙な面持ちだった。体臭と化しているアルコール臭は今日に限ってほとんど漂ってこない。
 部屋の中にトリコとゼブラが揃っていることを確認し、後ろに控えていた職員に目配せをすると、マンサムは後ろ手でドアを閉める。鍵の掛かる金属音に、2人は自分達がこの部屋に閉じ込められたことを悟った。
「お前さん達に聞きたいことがあるんだが、まずは何が起こったかを話しておこう」
 ただならぬ気配を察してトリコは背筋を伸ばし、ゼブラは立てていた膝を下ろす。
「サニーが大量の血を吐いて倒れた。検査の結果、血液中から新種の毒が検出されたそうだ」


Fin.


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2013/05/10 01:28 | トリコ。

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