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2024/05/19 08:53 |
【17years before】怖がらないで
この頃、三寒四温どころじゃない気温の変化に体がついていけません。
3月30日のイベントは前日深夜に急用連絡が入り行けませんでした。7月も怪しい。悲しい。


久々の更新です。なんと約一年半ぶり。
久々すぎて文体やら何やら変わってますが、お気になさらず。


庭時代捏造(10)です。









「…………で?」
「え?」
「や、だから、で? ソレでオレ達がビビるとか思った?」
 喜劇映画の俳優のように大げさに肩をすくめ、やれやれといった風に溜息を吐いたのはサニーだった。
「つかさ、もう後は飯食えれば良ダケじゃんよ。水とか薬飲んだりすんのと大して変わんねーし。そだ、今度ホワイトアップル持ってきてやるぜ。オレしか知らね秘密の木があってさ、少ししか実が生らない代わりにパネェ甘いの。ココには特別に分けてやるから超感謝しろ!」
「……サニー」
「ントはお前ガリガリだから肉とか食えれば一番良んだけど、そーゆーヘビーなのは色々食えるよになってからな! あとは肌がすべすべになる魚とか、髪がつやつやになる野菜とか、あと」
「もういいよサニー。怖くないふりなんかしなくていい」
「っから、ビビッてねーし!」
 噛み付くような大声に部屋の空気が震えた。それでもココは顔色一つ変えない。
「でも、膝が震えてるよね。最初と比べて3歩後ろに下がったし、手もきつく握りしめすぎて指先に血が通わなくなってきてる。違うかい?」
 さっとサニーの顔に朱が差す。慌てたように拳を開くが、痺れた指をうまく伸ばせずに悔しそうに体の後ろへと隠した。
「責めているわけじゃないんだ。それが当たり前の反応だよ」
 ココはサイドテーブルの上に重ねられた本の表紙をそっと撫でる。サニーにせがまれて何度も読んでやっている冒険物語。トリコが持って来る食材を調べるための図鑑。ゼブラが書庫の中で唯一興味を示した古いスポーツ雑誌。3人が退屈しないようにとココがいつも用意しているものだ。
「ボクは君達と仲良くなるべきじゃなかったんだ。でも、友達だって言ってくれたことが嬉しくてしょうがなかった。毎日君達が来てくれるのが楽しみで、本当のことを言えなかった」
 トリコは掛けるべき言葉を見つけられず、ただココを見つめることしかできなかった。ゼブラはじっと押し黙っている。3人とも、目の前に突きつけられた事実を、ココが語った真実を受け止めるだけで精一杯だった。
 もうひとつ言わなきゃいけないことがある、とココは口を開いた。
「明後日から特別な抗体を作る実験が始まる。明日は朝からその準備で研究者達が出入りするし、今回の実験は長期間になるらしいから、みんなに会えるのは今日が最後なんだ」
 嫌な響きを含んだ言葉だった。不安そうに窺うトリコとは対照的に、ココの口元は緩やかな弧を描いている。
「そんなの今までだってあったじゃないか。実験が終わったらまた会えるだろ?」
「今回はたぶん、生きて帰ってこられないと思う」
 あっさりと言い放たれた言葉に、サニーはこれ以上ないというくらい眉を吊り上げた。
「んだソレマジありえねーし! やべーって分かってて何で逃げねんだよ!」
「この実験はたくさんの命を救う大事な研究に欠かせないんだ。困っている人達が世界中にいるから、一刻も早く抗体を作って届けてあげなくちゃいけないってドクターが」
「それはジジイの勝手な言い分だろ。てめえが死ぬかもしれねえってのに他人の心配してる場合か」
「ボクは別にどうなったって構わない。さっき見ただろう? 所詮は実験動物ぐらいでしか人の役に立てない、毒を生み出す品のない化け物なんだから」
 ゼブラの眉間の皺が深くなった。無表情でいても怖がられてしまうその容貌には一層凄味が増している。苛立ちと怒りを露わにして睨みつける2人に動じることもなく、ココは明るく、ほんの少し寂しげに笑った。
「今までありがとう。元気でね」
 彼の言葉が終わるか終わらないかのうちに、ドアの前に立ちすくんでいた影が一つ、ゆらりと動いた。
 とっさのことに反応が遅れたトリコは、ココに向かって走り出す影を捕まえようと急いで手を伸ばす。ところが、後ろから襟首を掴まれて引き戻され、指先は影に届くことなく虚空を掴んだ。
「ざっけんな!!!」
 大きく振りかぶった拳で、サニーは力一杯にココの頬を殴りつけた。鈍い音と共に衝撃でココの足が地面から離れる。防御を知らないココの体は受け身を取れず、大きくしなって床へと倒れ込んだ。
「ココっ!!」
 トリコはゼブラの手を振りほどき、サニーが再び振り上げた腕を捕まえて羽交い締めにした。体の自由を奪われたサニーはなおもジタバタともがく。
「離してやれよ。口で言っても分からねえココが悪いんだ。もう一発くらい殴らないと目が覚めねえだろ」
 ゼブラの物騒な発言に反論しかけたトリコは腕の力を緩めないまま首だけをココに向けた。視界の隅で彼が上半身を起こしたのが見えたのだ。
「ココ、だいじょ……」
「大丈夫かサニー!」
 ほとんど悲鳴に近い叫びだった。
「ボクに触っちゃダメだって言ったじゃないか! 痛みは? 水ぶくれとかできてない? 今はまだ何ともなくても後で症状が出るかもしれないから、早く診てもらわないと」
 3人は未知の生物でも見るような目でココを見る。真っ青な顔で必死に訴えるココは自分の口の端が切れていることなど気付く様子もない。サニーはすっかり気勢を殺がれてしまい、薄い涙の膜が張った目で悔しそうにココを睨みつけた。
 トリコは抵抗を止めたサニーを離し、ココの前にしゃがみ込んだ。
「お前今、触られたんじゃなくて殴られたんだぞ。分かってんのか?」
「そんなのどっちだって同じことだ。とにかく、サニーを早くお医者さんのところへ……」
 無言のまま眉根を寄せたトリコを見て、ココは口を噤んだ。
「痛かっただろ。何で殴られたんだって思っただろ。どうしてそういうこと言わないんだよ。わけ分かんねえ実験で体中いじくり回されたり注射打たれたりするのだって、嫌なら嫌だって言えよ。あんな奴らの言いなりになる必要なんかないんだ」
「……ボクは普通の人間じゃないから。毒を持った有害生物だから。人を傷付けたり、こ、殺してしまうことだってあるかもしれないから」
「関係ねえよそんなもん」
 トリコは口元に滲む血を拭ってやろうと手を伸ばしたが、ココは怯えて後ずさる。しかしトリコは宙に浮いた手を引っ込めず、改めて握手を求めるように掌をしっかりと開いて差し出した。ココの目が驚きで大きく見開かれる。
「ねえ、怖くないの? 毒だよ? 死ぬかもしれないんだよ?」
「オレ達はお前の毒で死んだりしない。サニーだって何ともなってないぜ」
 トリコの後ろで、サニーはぐずぐずと鼻をすすりながらも「たりめーだし!」と胸を張る。その横に立つゼブラは不機嫌そうに舌打ちした。
「怖がってんのはそっちだろ。てめえの毒がどれほどのもんかは知らねえがな、オレはこの部屋にいたって屋上で鳴いてる鳥の声が聞き取れる。強化ガラスくらいなら拳一発で叩き割れるんだぜ。トリコの腕っ節だってオレとそう変わらねえし、こいつの鼻は訓練された犬が気付かねえような匂いも嗅ぎ分ける。サニーの髪は見た目も動きもまんま化け物だ。普通じゃねえのは自分だけだと思うな。チョーシ乗ってんじゃねえぞ」
 ココの体は小刻みに震えていた。トリコの右手と自分の右手、そして3人の顔を何度も見比べるが、無理だと激しく首を振って拒絶する。
「大丈夫だ。オレ達を信じてくれ」
 手を差し伸べた姿勢のまま、トリコは辛抱強く待った。

 やがて、ココはおずおずと右手を伸ばした。触れようとして躊躇い、引き下がりかけたその手をトリコが強引に掴む。
「っ……!!」

「ココ」
「……」
「ほら、大丈夫だろ」
 静かになった部屋の中でトリコは穏やかに囁いた。硬く身を縮めて目を瞑っていたココは、恐る恐る目を開けた。
 黒い瞳いっぱいに映る、トリコの顔。青い髪の両脇から覗き込む、サニーとゼブラの顔。そして、しっかりと握られた右手。
「オレ達もさ、ココほどじゃねえけどあいつらには色々酷い目に遭わされてんだ。だからこのままほっとくなんてできない。ココが死ぬかもしれないなんて、そんなの絶対に嫌だ」
「でも……」
「でももへったくれもねーし。あんなつくしくないジジイの言うコトなんか無視すりゃ良!」
「だって、仕方ないんだよ。ボクの毒は危険で……」
「ごちゃごちゃ言い訳すんな。お前はどう思ってんだ。出てえのか、出たくねえのか」
「ボクは……」
 ココは口ごもり、言葉にならない音を出しながらもじもじと唇を動かす。「聞こえねえよ」と急かされてしどろもどろになるココを励ますように、トリコは握った手に少しだけ力を込めた。
「ボクは…………ここから出たい。みんなと一緒に行きたい」
 必死に絞り出した消え入りそうな声は確かに3人の耳へと届いた。サニーは眉間の皺を解き、ゼブラは口角を吊り上げ、トリコは嬉しそうに、大きく頷いた。
「「「おう、任せとけ!」」」


Fin.

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2013/04/25 21:22 | トリコ。

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