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2024/05/19 10:45 |
【ちいさなぷれぜんと】
こんばんは。
我が家のお雑煮はかつおだしの汁に焼いた角餅、にんじん、三つ葉、なると、鶏肉を入れます。mayutoです。

大晦日にこっそりテキスト投下です。大晦日関係ないですけれども。



それではみなさまよいお年を(´∀`)ノ


<追記>改行足しました。見づらくてすみませんでしたorz









 空は真っ暗だし雪も降りそうなくらい寒い。風邪引かないようにしっかり着込んでけってお兄ちゃんがうるさかったのはこの天気のせいかぁ。毛糸の帽子、ふわふわの耳当て、マフラー、もこもこ上着、手袋、長ズボン、ブーツ。まるで雪山に行くみたいな格好させられて嫌だったけど、こんなに着てても寒いんだったら毛糸のパンツも穿いてくればよかった。それにしてもゼブラってば「ピンクのタヌキみてえ」だなんてひどい。女心は傷付きやすいんだから。
 ビュウッと風が吹いて転びそうになった。背中のリュックはあんまり重くないけど、荷物をいっぱい詰め込んで風船みたいに大きくなってるからグラグラして歩きにくい。あともうちょっと、あの建物まで頑張れ私!

 大きな冷たいガラスのドアの前に立って、そおっと中を覗いてみた。壁も床も真っ白な長い長い廊下を、同じくらい白い服を着た大人がたくさん歩いてる。みんな難しい顔をしていて何だか怖い。
 かくれんぼをする時も鬼ごっこをする時も、このドアの向こうには絶対一人で行っちゃダメだっていつもお兄ちゃんに言われるの。ドアの向こうには悪い大人がたくさんいるから、お兄ちゃんくらい強くならないと勝てないんだって。
 どうしようかな。やっぱり帰ろうかな。
 上着のチャックを少し下げて、首から下げたお守りを引っ張り出してみた。マンサムがくれたカードには、笑ってる酔っ払いオヤジの写真と難しい字がいろいろ書いてある。「これを持っていればどんな大人も味方になってくれる」って言ってたけど本当かな。じっと見てると目玉が動きそうな気がしたから、顔が見えなくなるように裏返しとこう。
「何をしているの?」
「きゃあっ!」
 びっくりして振り向くと、眼鏡を掛けた女の人が立っていた。真っ黒なコートの下に白い服を着てるってことは、この人もドアの向こうの人達の仲間だ。眼鏡も目もキツネみたいにとんがってて怖い。心臓がドキドキして口から飛び出しそう。
 そうだ、お守り見せなくちゃ。カードを表にして女の人によく見えるように顔の前に出した。
「よ、四一○八号被験体との面会に来ました! マンサム所長から許可ももらってます! 私を面会室まで連れてってください!」
 お兄ちゃん達と何度も練習した言葉、ちゃんと言えてよかった。女の人は私のお守りを見た後どこかに電話を掛けていたけど、ぼそぼそしゃべって電話を切った途端ニコニコ笑顔になった。声も話し方も赤ちゃん相手みたいになってとっても変。マンサムの写真を見ておかしくなっちゃったのかもしれない。
 廊下を歩きながら、「お名前は?」「お歳はいくつ?」「その大きな荷物はなあに?」とかいっぱい聞かれた。でもさっきの言葉以外はおしゃべりしないって約束してるの。特に名前は絶対教えちゃいけないんだって。よくわかんないけど、私はちゃんと約束を守って何にも言わないで後を着いていった。すれ違う大人は私のことをじろじろ見たりひそひそ話したりしてて嫌な感じ。そーゆーのは『つくしくない』って知らないの?
 エレベーターに二つ乗って、誰もいない廊下を歩いて、女の人は『4108』ってプレートが付いた灰色のドアの前で立ち止まった。開けてもらったドアの中は薄暗くてちょっと変な臭いがする。突き当たりのガラスの壁の奥で、体中に紫色の染みだらけの包帯をいっぱい巻かれた男の子がこっちを向いて座ってた。
 ――誰かと思ったら、リ……。
 私の顔を見たココが何か言おうとしたから、人差し指を口に当ててシーッてやった。ココもどうして私がそんなことするのかすぐに分かったみたいで、こくんって頷いた。
 ココがしっかりお辞儀したから私もお辞儀すると、女の人は出て行った。ドアに耳を当てて、足音がちゃんと聞こえなくなるまで待つ。ゼブラがそうしろって言ってたから。
 ――もう行っちゃったよ。電磁波が弱くなった。
 優しい声。私の大好きなココの声。ガラスにうんと近付いて見たココは、秋にみんなでお見舞いに来た時より痩せてる気がした。「大丈夫?」って聞いたら「大丈夫だよ」って答えてくれたけど、たぶん本当は大丈夫じゃない。ココはみんなの中で一番年上だからいろんなこと我慢してるの知ってるもん。でも私が悲しい顔するとココも悲しい顔になっちゃうからニコニコしててあげるの。
 ――サニー達の姿が見えないけど、もしかしてリンちゃん一人で来たの?
「うん! ココに会いたいって言ったらね、マンサムがね、『どうせなら一人で行ってみろ!』って。お兄ちゃん達はこないだ来た時に大暴れしたからお留守番してるし」
 何て書いてあるのか読めないから読んでってカードを見せたら、とっても大事なことが書いてあるよって教えてくれた。私をココの部屋まで連れてってくださいってこと。私に悪いことしたらパパがものすごく怒るってこと。八時になったらマンサムが迎えに来るってこと。すごい、本当にお守りだったんだ。
 ――ねえリンちゃん。この部屋に着くまでに、白い服を着た人達からお菓子やジュースをもらったり食べたりしたかい?
「ううん。くれるって人はいたけど、絶対もらったり食べたりしないってお兄ちゃんやトリコと約束したからもらわなかったよ」
 ココは偉いねって褒めてくれたけど、どうしてもらっちゃいけないのって聞いても教えてくれなかった。

 この部屋、暖房がポカポカしてて暑いな。帽子や手袋を脱いでたら、ココがリュックを指差した。
 ――トリコの体でもすっぽり入りそうなくらい大きなリュックサックだね。おやつでも持って来たの?
 そうだった! 私には大事な使命があったんだ! すっかり忘れてた!
「ココ、ちょっと目つぶってて! 準備するから!」
 ――準備?
「いいから早く!」
 ――う、うん。
 ココは不思議そうな顔で、私の言うとおりに両手で目隠ししてくれた。急いでリュックのフタを開けると、押し込められてたぬいぐるみ達がぴょーんと飛び出しちゃったから拾ってリュックの横に座らせる。ダメでしょ勝手に出てきちゃ。
 お兄ちゃんと一緒に折り紙で作ったケーキとお花をドーナツ型に並べて、その周りにトリコがクレヨンで描いたごちそうの絵を置いた。ぬいぐるみ達はごちそうを囲むように座らせて、倒れないようにゼブラが作った紙粘土のプレゼントボックスで支える。
 正座したココの頭の高さは背伸びしたら何とか手が届くくらい。ココがかぶってるように見える所に、赤と白の画用紙で作った三角の帽子を窓ガラスに貼り付けた。同じ帽子をぬいぐるみ達にもかぶせて、私もかぶる。もちろん白いおひげも忘れない。よし、バッチリ!
「もういいよー」
 手を下ろしてゆっくり目を開けるココの顔をわくわくしながら見つめる。ココは最初折り紙のケーキやごちそうの絵を見てびっくりして、それから頭の所の帽子に気付いて目がまん丸になった。
 ――これ……もしかして、サンタクロースの帽子?
「そう! ココはこないだのクリスマスパーティー出られなかったでしょ? だからうちがみんなを代表してココにクリスマスをプレゼントしに来たんだし!」
 ココはすごくびっくりした顔をして、それからとびっきりの笑顔になった。青白かったほっぺもピンク色。ココを喜ばせようと思ってたのに、私まで嬉しくなっちゃう。
「えっと、このライオンさんがトリコ。ウサギさんがお兄ちゃんで、クマさんはゼブラだよ。みんなの髪と同じ色のリボンを付けてあるから分かりやすいでしょ」
 ――すごいアイデアだね。こっちの絵は誰が描いたの?
 ニコニコしながら聞いてくれるから、私は全部教えてあげた。この骨付き肉は焼きたてに見えるようにトリコが頑張って色を塗ったんだよとか、ゼブラは粘土をこねるのが下手だったよとか、どんな話も楽しそうに聞いてくれた。お兄ちゃんと私が何度も失敗して作り直した折り紙ケーキもすごく上手だねって褒めてくれた。
 うーん、でもやっぱり足りない。ごちそうもケーキもサンタさんの帽子もあるけど、一番クリスマスっぽいアレがないからなぁ。
「本当はね、みんなでツリーも作ったの。ゼブラと同じくらいの大きさで、てっぺんに大きくてきれいなお星様もつけたの。でもリュックに入らないものはダメだってマンサムが言ったから、持ってこられなかったの」
 ごめんねって言うと、ココは謝ることないよって笑った。
 ――ボクはね、こんなにかわいいサンタさんが来てくれただけでじゅうぶん幸せなクリスマスだよ。リンちゃんに言われるまでツリーがないことにも気付かなかったくらいにね。

 サンタさん。どうしてココの所には来てくれなかったの?
 ココはずっといい子にしてるよ。ワガママ言ったりしないし、喧嘩したりイタズラしたりもしないよ。痛くて怖い実験からも逃げないよ。こんな何もない部屋で一人ぼっちで怖い大人に囲まれて暮らさなくちゃいけなくても泣いたり嫌だって言ったりしないよ。
 ねえ本物のサンタさん。私がもらったプレゼント返すから、代わりにココにプレゼントをちょうだい。

「おーい! 迎えに来たぞ!」
 後ろのドアが開いて、真っ赤な顔のマンサムの顔がぐいっと近付いてきた。キモい! あとお酒臭い!
 一緒にジングルベルを歌ったりしりとりしたりしてたら、あっという間に時間が経っちゃったみたい。ガラスの前に並べてた折り紙やぬいぐるみはぽいぽい片付けられて元通りの何にもない部屋になっちゃった。
 ――今日は来てくれてありがとう。楽しかったよ。
 ココの顔は笑ってるけど、声はしょんぼり。次はいつ会えるんだろう。もっともっとココと一緒にいたいのに。
「ああいかんいかん、忘れるところだった」
 まんまるに膨らんだリュックを肩に担いだマンサムが急に振り向いて、ココの後ろを指差した。部屋の奥、ドアの下から茶色くて四角い紙がちょっとだけ覗いてる。ココは拾い上げて中を覗いて、動かなくなった。どうしたんだろう。マンサムも何でニヤニヤしてるんだろう。マジキモいし。
「来る途中で小さなサンタクロース三人衆に襲われてな。ワシのIDカードを強奪しようとしたんで返り討ちにしたんだが、だったらせめてその写真をお前さんに届けてほしいと言われたんだ。ワシが元々持って来たのは一龍会長からの手紙の方だぞ」
 写真って何? パパからの手紙? 担ぎ上げられた肩の上で頭をバシバシ叩いたけどマンサムは教えてくれない。そしたらココが振り向いた。
 ――ボク、明日になったらここから出られるって。みんなのところに帰っていいんだって。
 ココは目を真っ赤にして、今度は嬉しそうに笑った。
 ココが見せてくれた写真には、私とお兄ちゃんたちとで作ったクリスマスツリーが写ってた。それから、サンタさんの格好をしたお兄ちゃん、トリコ、ゼブラ。下の方に書いてある金色の文字は読めなくて、ココが代わりに読んでくれた。




『しょうがつはいっしょにもちつきするぞ!!』
 
 
 
Fin.

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2012/12/31 21:05 | トリコ。

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