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2024/05/19 12:16 |
【つくしいオレが生まれた日なんだから全身全霊で祝うのはたりめーだろ。】おまけ
サニー誕テキスト、ラストです。

さ、3か月もかかってしまった。。。。。。サニーちゃんごめんね(´Д`)









■後片付け

 
 バースデイパーティーが終わり、洒落た演出と華やかな料理を心ゆくまで堪能した招待客達はそれぞれ家路に着いた。列を成していたタクシーが一台、また一台と去るにつれて、パーティーの余韻がしんと冷えた夜風に塗り潰されていく。楽しい時間はいつだって駆け足で去っていってしまうのだ。
 サニーは最後に残った黒塗りの高級車に近付いた。黒服の運転手が開いたドアの奥には鉄平と節乃の姿が見える。彼らを待たせているというのに、一龍はボンネットに寄り掛かってのんびりと葉巻樹をくゆらせていた。煙を避けて顔を顰めるサニーにも気付かぬふりだ。
「なかなか楽しかったぞ。お前達も何のかんのと言いながら仲良くしとるじゃないか」
「っつに、普段世話してやってんだからこのくらいの奉仕は当然だし」
 口を尖らせたサニーを見て、一龍は浅黒く日焼けした肌にくっきりと皺を刻んで嬉しそうに笑った。
 
 遠ざかっていく車を見つめながらサニーは思う。血の繋がりのない一龍を父と呼ぶように、トリコ達も血の繋がらない兄弟のような存在なのだ。IGOの施設で一緒に育ち、時には激しい喧嘩をしたりもしながらお互いに切磋琢磨し合った腐れ縁の仲間達。気心が知れすぎて今さら気を遣い合う間柄でもない。
 だが、パーティーが成功したのは間違いなく彼らのおかげである。ゼブラは目が合った相手なら誰にでも喧嘩を吹っかけるくらい短気なのに、今日は珍しく最後まで揉め事を起こさずにドアマンを務め上げた。トリコもあれだけのごちそうを前にしてはしたなく表情を崩すことも涎をこぼすこともなく、ココと同レベルの如才ない接客をこなした。三ヶ月間猛特訓したリンのピアノ演奏もなかなか様になっていた。素晴らしい料理を提供してくれた小松も含め、全員がサニーのために裏方に徹してくれたのだ。礼はきちんと言っておくべきだろう。
 車の影が見えなくなったことを確認し、『CLOSED』の札を掛けた。ドアの向こうには後片付けをする人影が行き交っている。入ってすぐに言葉を掛けるのは気恥ずかしいが、終わるまで全員が揃っている保証はない。なるべく早口でさらりと流してしまおうと心に決めて、静かにドアを開けた。
「みんな今日はほんとありがとな。前らのおかげでMAXつくしいパーティーになった。マジ感謝して……」
「頼む! 一口だ、一口でいいから!!」
 滝のような涎を流しながら小松に縋りつくトリコ。
「ダメです! いくらトリコさんのお願いでも聞けません!」
 大きな丼を必死にかばう小松。
「いい加減諦めろ。てめえの分はねえんだよ」
 空の器を両脇に積み上げてなおガツガツと丼を頬張っているゼブラ。
「二人ともジャケットを床に放るな。皺になるからハンガーに掛けろっていつも言ってるじゃないか」
 溜息を吐きながら散らばった衣服を拾い集めるココ。
「みんなもこっち手伝ってよ! こんな大量の皿うちだけじゃ洗い終わんないってばー!」
 ドレスの上から掛けたエプロンを泡だらけにしてキッチンから顔を出したリン。
 ただ一人、輪郭が緩く溶け始めている彫像だけがサニーの言葉に耳を傾けていた。
 
「んで自分の誕生日に皿洗いしなきゃなんねーんだ!」
 こぢんまりとしたキッチンの中、リンと並んでせっせと山積みになった皿を洗う。ふと手を止めてみると、せっかく一流ネイリストに磨き上げてもらった爪は冬の窓ガラスのように曇ってしまっていた。
「気になるならうちみたいにゴム手袋すればよかったのに」
「ココの服みてーにダッセ小豆色のゴム手袋なんか付けるワケねーし! つかお前不器用すぎ!」
「そっちが神経質すぎんだし!」
 皿を洗うリンの手付きは危なっかしいことこの上なく、サニーが覗いた時には既に小松が持ち込んだグラスを七つも割っていた。このまま任せておいては大事なコレクションを粉々にされかねないので、仕方なく手伝うことにしたのである。
 本来なら、ここに立っているのは小松だったはずだ。しかし彼は今、サニー達の後ろでせっせと鍋を掻き回している。
「小僧! 次はまだか!」
「もうできますから! ちょっと待ってくださぁい!」
 炊飯器から炊き上がりを告げる電子音が流れた。小松は急いで丼に炊きたての白飯をよそい、飴色に輝く豚の角煮を載せてたっぷりと煮汁を回し掛ける。最後に練り芥子を丼の縁に添えると盆にも載せずにゼブラの元へと駆けて行った。
 もう二十杯は超えただろうか。オゾン草を獲りに行った時、ゼブラだけにこの丼を作ると約束したらしい。小松は後日ホテルグルメに呼んで食べさせるつもりだったらしいが、ゼブラが今すぐ食わせろと言うので急遽作っているのだ。丼を食べたいがために約三時間大人しくドアの前に立ち続けるなど昔のゼブラからは到底考えられないことだった。ゼブラの食事スピードはまだまだ衰える様子がなく、小松の手が空くまでには当分掛かるだろう。
 手元に視線を戻せば、床にこぼれるほど大量の泡に埋もれたリンの手元からはガチャガチャと不穏な物音が鳴っていた。リンには落としても壊れない金属製の鍋や調理器具を洗わせていたのだが、それが逆に丁寧さを欠く結果となってしまったようだ。泡の落ちきっていない鍋でも平気で水切り籠に載せようとするし、レードルやボウルを床に落としてもお構いなしだ。豪快すぎるその振る舞いにそろそろサニーの繊細な神経は限界を迎えていた。
 そうだ。こういうことはココに押しつければいい。多少の悪態は吐くが必ずやってくれるだろう。フロアとキッチンを隔てるドアの隙間から顔だけを覗かせて姿を探すと、彼はなぜかモップ片手に部屋の隅に向かって仁王立ちしていた。ココの前にはしょぼくれてテーブルに突っ伏しているトリコの姿。
「トリコ、そんな所でさぼってないで手伝え」
「無理。サニーの見栄張りまくった面倒臭え演出に一日中付き合わされたんだぜ? ずっと敬語使わなきゃいけねえわ立ちっぱなし歩きっぱなしだわですげえ疲れてんだって」
「それボクも同じなんだけど」
「ココは元から客商売してんだろ。オレは普段営業用スマイルなんか使わねえもん。ああ腹減った肉食いてえ」
 トリコは未練がましい視線をゼブラに向けたが、逆に分厚い肉の塊を見せびらかされてしまい、腹の虫が物悲しい声を上げた。つまらなさそうに口をへの字に曲げたトリコはココへと視線を移す。
「なあコ……」
「言っておくが、ボクは今夜もサニーの家に泊まるからな」
「はあ!? もうパーティーは終わったじゃねえか!」
「この間ちゃんと言ったはずだ。八日の朝グルメフォーチュンに帰るって」
 ココはこの後のスケジュールを淡々と説明する。帰宅後にまず朝摘みのバラの花びらを浮かべた風呂を用意。サニーが入っている間にベッドメイクを済ませ、風呂から上がったらトリートメントと全身のオイルマッサージ。髪をブローしたら就寝前の紅茶。翌日朝食を作り、一緒に食べて食器を洗い終わってから帰宅。ただし明日は午前中から占いの予約が入っているので、荷物を取ったら店に直行。
「何だよそれ……ココはオレよりもサニーが大事なのかよ……」
 雨に濡れた子犬のような顔をしてトリコはココを上目遣いに見やる。効果音を付けるならばウルウルあたりだろうか。リンがやってもギリギリアウトな表情なのに、トリコの図体と顔立ちでは気色悪い以外の何物でもない。女々しいうえに鬱陶しい。そんなトリコを見て引かないココもどうかと思う。
 このまま二人を放っておくとリンの教育上よろしくない展開が始まらないとも限らないので、仕方なく皿洗い交替を諦め、触覚でココの袖を引っ張った。眉間に皺を寄せて振り向いたココに『どうにかしてこい』と合図を送る。
「……ちょっと来い」
 うんざりした口調で吐き捨てると、半ば引きずるようにしてココはトリコを連れ出した。ああして年上風を吹かせてはいるが、どうせガツンと説教できずにテリーを呼んでお菓子の家まで運ばせるのが関の山だろう。お前はトリコに甘すぎると何度も言っているのだが一向に改める気配がない。
 
 やっとのことですべての食器と調理器具を洗い終わった。一点の汚れも油膜も残さず隅々までつるりと洗われた完美大理石の皿達はしっとりと水のベールに包まれ、潤んだ艶やかな輝きを放っている。皿の中央に映り込む自分の顔は今夜も申し分なく美しい。皿の縁模様と同じデザインの額縁に自分の写真を飾ったらさぞかし調和するに違いないと思いを馳せていたサニーの耳に、小松の悲鳴が飛び込んだ。
「ゼブラさんダメです! おかわりならすぐ持って来ますから、それだけは……っ!!」
「ああ? これだって食い物だろうがよ。喉が渇いたんだよオレは」
 ゼブラの言葉に全身の血の気が引いた。小松が作る丼以外でフロアに残された食べ物、喉を潤すことができる食べ物といえば一つしかない。
「ちょ、待ちやがれゼブラァッッッ!!!」
 必死の形相でフロアへと飛び出したサニーと真っ青な顔でゼブラに縋り付く小松の目の前で、ゼブラは微かにオーロラを纏ったサニー像の右肘を掴み、ボキリともぎ取った。
「「あーっ!!」」
 ゼブラは二人の絶叫など歯牙にもかけずにジュエルミートごと右腕にかぶりついた。ボリボリと氷の噛み砕かれる音がサニーの心を粉々に打ち砕く。
 もう三十分もすれば保冷車が到着し、彫像を運び出す手筈になっていたのだ。溶けた部分を小松に修復してもらってから特注の冷蔵グルメケースに入れて応接間に飾ろうと思っていたのに。こんなことになるならトリコなど無視してココに皿洗いをやらせるべきだった。おぞましい笑みを浮かべたゼブラの高笑いが絶望に拍車をかけて鳥肌と涙を誘う。
「こんなに美味い物を食わずに飾っとくだけなんて勿体ねえことしやがって! よし、この肉とスープはオレのフルコースに決まりだ!」
「センチュリースープは渡さねえぞ!!」
 この展開は。まさか。
 勢いよくドアを開けて飛び込んできたトリコは一直線に彫像へと駆けてくる。そして予想通り、オゾン草を持った左腕をもぎ取った。
「ぎゃあああああああーーーっっ!!」
 そこからはもう地獄絵図だった。二人は競い合って彫像を砕いては頬張り、お互いの弛緩しきったみだらな顔を見てゲラゲラと笑い転げている。リンはオゾン草を握り締め、どうにかトリコと一緒に食べようとアピールに必死だ。かろうじて死守した頭部を縋る思いで小松に見せたが、小松は沈痛な表情で首を横に振った。
 
 帰る。マジ帰る。
 放心状態でふらふらと外に出たサニーはココの姿を探した。明日の朝まではココを独占できる。無茶も我儘も言いたい放題言えるしココなら聞いてくれる。風呂の前にまずは熱い紅茶を淹れさせよう。とっておきの茶葉を贅沢に使って、ティーポットは鉄平のプレゼントを使おう。それからそれから、とにかくこの落ち込んだ気分を紛らすことがしたい。内容は何でもいい。ココならきっと何とかしてくれる。
 だいたい、ゼブラは自分の危機管理不足にしても、トリコの方はココがきちんと説教するなり帰らせるなりしていればあの暴挙は防げたはずだ。その辺りの監督不行届きは厳重注意せねばなるまい。
 裏口の生垣のそばにやっとココの姿を見つけた。ちょうど木の陰になっている所にいるので何をしているのかはよく見えない。かろうじて背を向けていることが分かる程度だ。
「おいココ! もう帰んぞ! さっさと支度しろし!」
 肩を大きく跳ねさせたココはごそごそと身じろぎしている。不自然に慌てた様子が気になって正面に回り込めば、乱れたシャツのボタンを必死に掛けている最中だった。足元にはタイとポケットチーフが落ち、ジャケットにも不自然な皺が寄っている。
「…………オレはドコから突っ込めば良?」
「頼むから何も言わないでくれ……」
 背を向けて若干ふらつきながら身なりを整えるココの首筋が月明かりに照らされる。点々と規則正しく弧を描いて並ぶのは歯型だろう。おあずけが守れないのは飼い主の躾が甘いのか根っからの駄犬だからなのか。
 ズキズキと激しくなる頭痛に頭を抱えていると、ココの背後から小松の声がした。
「サニーさぁん、ココすわぁーん。そんな所にいると風邪ひきますよ~」
 やけに間延びした口調に加えてへらへらした妙な笑い声。もしやと思って恐る恐るココの肩越しに小松を見れば、ぐでんぐでんになったみだらな顔がそこにあった。それどころか、開け放たれたドアの奥ではリンまでもが同じ表情に染まっている。
「もう嫌だコイツら…………」
 近付いてくる保冷車のエンジン音を聞きながら、サニーの体はスローモーションで崩れ落ちた。
 
 
 
Fin

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2012/12/14 22:55 | トリコ。

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